君は俺のモノ

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君は俺のモノ

 部活が終り帰り道、陽斗は丁度ひかりと部活終わりの時間が一緒になり下校した。 「世那さ、失恋したって。」 ひかりは世那から聞いた話を何故かポロっと陽斗に言ってしまった。 「マジで?」  陽斗は目をキラキラさせ、この上なく嬉しそうな顔をする。 ひかりはその顔を見て(しまった!!)と心の中で叫び、「あのさ・・・陽斗?世那がね、失恋したとしてもあんたと付き合うかは全く別の話じゃないの?好きかどうかもわからないじゃない。てか、長い事颯人の事が好きだったんだから…そんな直ぐに…てか、そもそも何でそんなにニヤつくのよ?!」 ひかりはキモイんだけど?と陽斗の顔をまじまじと見る。 「やはり神は存在した…。」 「は?」  陽斗は希望に満ちた目をし、キラキラした眼差しをひかりに向け、ひかりは汚い物でも見るかのように陽斗を見る。 そして一言、「無理。」と先に答えた。 「待て、まだ何も言ってない。」 ひかりは保育園からの付き合いなので大体この次に出てくる陽斗の言葉が容易に想像が出来た。 「あんた…仲を取り持てとかそんな所でしょ?小さい時から単純明快な脳の構造しているあんたが言いそうな事なんて。」 数歩離れて陽斗に投げかける。 「流石だな…と、言いたい所だけど、世那の性格と小学校の時の…ほら、あれ。」 「ああ、あれね。」 ひかりは腕を組み、世那が思春期男女の何とやらに巻き込まれた時の事を思い出しうんうんと頷く。 「それがあったから世那が混乱する様な事はしない。」 あくまでも慎重に行くと宣言する。 ひかりは言うか言わまいか悩んだが、世那も心変わりする事もあるかもしれないので、部活の時に世那と話した事は黙っている事にした。 「でもさ、もし振られたらどうすんの?」 念の為違う角度から切り込んでひかりは聞く。 「世那にオッケー貰えるまで粘る。」 「………ただのストーカーだな…。」 聞くんじゃなかったと後悔が凄い。 「あのさ、俺が世那の事好きなのは…実は小学校の頃からだ!」 陽斗は声高らかに堂々とひかりに言ったが、「そんなん皆知ってるわ!!見てりゃ分かる。世那にだけは絶対に暴言吐かなかったもんね。どうでもいいけどあんた声デカい!!恥ずかしい!!」と言ってひかりは自宅に着いた所でさっさと家へ入って行った。 「そういや、颯人の彼女誰か聞いてねーや。」 まぁいいやと陽斗は足早に浮足立って自宅へ戻った。  ご機嫌に自宅へ戻り玄関を開けると鬼の形相をした母親が玄関上り口に立っていた。 「た…ただいま…。」 陽斗は朝の事をたった今思い出す。 「陽斗、母さんに言う事と何か言いたい事は?」 今にも血管がキレそうな程、母親は眉間に皺を寄せて怒っていた。 「あー…朝のは…悠人が…お腹痛いって…」 適当に誤魔化そうとした途端、母親はスマホを取り出し、悠人の母親に電話しようとした。 「だーっ!ごめんなざい!!があちゃん!親父にはお願いだから!」 陽斗が唯一この世で怖いと思っている人間。父親に叱られるのだけは勘弁だと玄関で土下座をして母親に頭を下げる。 「あんたね…頭はイマイチ、素行も悪い、何で高校行くって…サッカーしか無いのよ?サッカーだけは出来るから特待の話出してもらってるのよね?それを無下にする様な事してどうするのよ?」 玄関先で母親にこれでもかと叱られていると、姉と弟がリビングの入口扉から憐れんだ目で陽斗を見ていた。 「何見てんだよ!?」 陽斗は姉と弟にキレ出す。 「その姿…世那ちゃん見たら、凄い軽蔑した目で見られそうよね。」 姉の真帆が半笑いで言ってくる。 「お姉ちゃん、お兄ちゃんは小学校の児童会の会長さんやってた立花世那ちゃんが好きなの?」 弟の尚斗が姉に確認している。 「そうよ。陽斗はおバカのクセに頭の良い女の子が好きなのよ。全くもって釣り合ってないし、世那ちゃんもこんな変態バカ相手にしないでしょうけどね?」 真帆は言いたい放題言って高らかに笑い、尚斗にお兄ちゃんは世那ちゃんにきっと振られてそのうち撃沈するから見ててごらん?と言った。 「てめーっ!真帆!!庭出ろや!」 「はぁ?空手有段者の私とやり合う気?」 尚斗はキョドキョドして兄と姉を交互に見る。 長男長女で喧嘩が始まりそうな時に丁度タイミング良く父親が帰宅した。 「ただいま。……お母さん、長男長女と話があるから、お母さんは尚斗とご飯作って待っててくれ。」 二人は父親の威圧感だけで撃沈し、父の部屋へ連れて行かれた。 「とりあえず、お姉ちゃんから聞こうか。」 何故喧嘩になったのか?父は話してくれと真帆に聞いた。 「ああ、あの喧嘩は私が吹っ掛けた。ごめんなさい。」 真帆は謝りさっさとイチ抜けした。  父は陽斗に向き直り、溜息を一つ吐く。陽斗は上目づかいで父親の様子を見るがどう見ても怒っていると言うよりも呆れている顔をしていた。 「母さんからメールが入ったが・・・朝練には間に合うのに、どうして学校の朝の会には間に合わないんだ?」呆れてため息を吐いて父は聞く。 「先輩から借りたグラビア見てた・・・。」 陽斗の一言に父親は爆笑しだした。陽斗は目が点になって父親を見る。 「やっぱり。そんなこったろうと思った。グラビアいいよなぁ。」父は懐かしいと言って自分も中学の頃世話になったと笑う。 「でも、そのおかげで遅刻して、反省文を書かなくちゃいけなくなって、もう朝の会の前には二度と見ないと思った。」陽斗は心底後悔したとしょんぼりし、父親に反省を述べる。 「まぁ、でも、いい経験だよな。ところで陽斗、お前は将来どうしたいんだった?」夢は?と問われる。 「サッカーのプロチームに入る事。高校は隣の市の私立高校の特待をゲットすること。」 「だよな?遅刻は良い訳ないよな?くだらない遅刻が一番ダメだ。」 「はい。」陽斗はもうしませんと父に謝り、リビングへ行くと真帆も陽斗に謝った。  夕食後、担任から出された遅刻の反省文を書き始めることにしたが、何処を取っても自分自身の行動は反省だらけで、何を何処から書くか悩むくらいだ。   陽斗は将来も見据えた反省文を書こうと遅い時間まで取り組んだ。 「世那さぁ、颯人の事もう諦めちゃったの?」  週末で世那の家には幼馴染が泊まりに来ていた。 高本伊織。 世那の親友で幼馴染。幼い頃から世那の良き理解者の伊織は世那がずっと颯人の事が好きなのを知っていた。 「伊織に言って無かったね。あのね、颯人彼女いるのよ。」 「は?いつから?!」伊織は目を丸くする。 「1か月前にお父さんと映画を見に行ったの。その時に・・・ポップコーン売り場でね。」世那は笑いながら伊織に話す。颯人が3組の伊藤アミと手を繋いで一緒に居たと。 「うそ!アミ!?あの学年一性格が良くない人!?」 伊織は「何で世那じゃなくてアミなんだ!」と発狂する。 「人にはそれぞれ何かしらいい所があるのよ。頭ごなしに否定してはだめよ。」 「世那!!あんたは聖女か!?神か?!普通好きな人取られて悔しくない?!」 伊織は今度は世那に発狂する。その時ひかりから世那にメールが入った。 「ん?・・・え・・・。あー…。」 「世那?どうしたの?」伊織は首を傾げる。 「あぁ・・・ひかりが今日の帰りに・・・陽斗に私が失恋したって言っちゃったって。」世那は顔を覆った。 「陽斗・・・あぁ、5組の河崎陽斗だよね?」 「そう・・・。あぁ、陽斗がまた颯人に要らん事言いそうだ・・・。」世那は小学校の頃の悪夢を思い出す。陽斗は何を思ったか、同じクラスの女子生徒から世那が颯人を好きだと聞いた途端、颯人に言ってしまい、世那はそれ以来颯人とは物凄く気まずくなり、あまり口をきかなくなり、気が付けば失恋していた。 「陽斗って、世那が好きなのかな?」伊織は首を傾げる。 「・・・知らない。けど陽斗はいい所もあるし、困る事する事もあるし。付き合う付き合わないというレベルでは無いかな?変態だし…それなりに仲がいいから今の関係を崩したくないの。陽斗は・・・大切な友人の一人よ。まぁ・・・究極言うと一生友達で居て欲しいかな?男の子だけど。」 世那が笑顔で言うと、「陽斗は幸せね、世那がこんなに大事にしてくれて。」と少しやきもちを焼いたが、「でもね、伊織が一番の親友だからねぇ!」と世那は伊織に抱き付いた。  週明け、世那はまた風紀当番でいつも通り昇降口に立っていた。学年委員をやっている為だが、正直キツイ。 (何で毎度、毎度登校してくる生徒の頭髪から服装、遅刻の有無をチェックしなきゃならないのよ・・・。)と思いながらやっている。 2学期後期の生徒会役員への推薦は確実だろうと担任から言われたが、クラスメイトから推されるからやっているだけで、自ら進んでやっている訳では無かった。  (期待されるから応じるだけ。)  正直言って気が重い。注意をしても言い返してくる生徒も居て、仕方ないからやっているんだと啖呵をきりたくなる。そもそも規則ぐらい守れよと更に言い返したくなるが、ニコッと笑って先生の前では気をつけてとアドバイスしておく自分に笑いたくなる。 「はぁ。ダル…」 心の声が口に出てしまう。 「世那、ちょっと来い。」 突然話しかけられて横を見ると、陽斗が居た。 「え?!ちょっと!!」 世那は陽斗に腕を掴まれ連れて行かれた。 「ちょっと!どういうつもりなの!?」 陽斗は世那を朝は誰も居ない美術室へ連れて来た。 「世那、嫌なら嫌って言えよ。」 陽斗は世那の心の声を聞いてしまい、実は世那が色々我慢して自分を抑えて学校生活を送っている事に気付き色々言いたくなってしまった。 「嫌って何?」 世那は陽斗を睨む。 「お前、さっき風紀の仕事しながらダルって言ってたじゃないか!?」 「…聞こえてたんだ…。」 「ああ、しっかりな。お前実は普段から優等生演じてるんじゃないのか?」 陽斗は心配して聞く。 「さすがね、陽斗は何でもお見通しね。ほんっとに私の事よくわかってくれているよね!?でも、大丈夫よ?将来の為だからこれくらいどうって事ない。」 世那は余裕の笑顔でニコッとする。 「俺は心配だ。」 「颯人の事で私が失恋したから?」 世那はひかりに聞いた事を言うと陽斗の顔が強張る。 「…それもあるけど、世那の事が心配だったから…」陽斗は思わず世那の腕を引き寄せ、抱きしめてしまった。 「ちょっと!離してよ!!やめて!!変態!!」 「やめない。」 「はぁ!?何考えてんのよ!?」 世那が叫んだ瞬間、陽斗の唇が世那の唇を塞いだ。世那は一瞬何が起こったか分からず呆然とする。 「考えているとか、いないとかじゃなくて…これがお前への俺の気持ちだ。」 「ばか!!」 世那は陽斗の腕を振り払い美術室を走って出て行った。 「そりゃ変態だわ。」 悠人と奏多は陽斗から朝の事を聞き頭を痛めた…。 「お前…いきなりキスされたら誰だって固まるぞ…。」 悠人はあり得んわぁ…変態だわ…むしろ警察連行レベルだと呆れた顔をしている。 「陽斗…世那に嫌われたな。片思い終了だ。両思いもきっと無い。長い事お疲れ様。」 奏多も呆れて陽斗を見る。 「どうかした?陽斗?」 ひかりが教室に入ってきて、3人の様子を見て近づいてきた。悠人と奏多から小声で陽斗の朝の話を聞き、ひかりは教科書の背表紙で陽斗の頭を思い切りぶん殴った。 「っでぇ!!」 「っでぇ!!じゃないわよ!この!ど変態!!何て事すんのよ!?私ちょっと世那のとこ行ってくる!」 ひかりは陽斗を睨みながら慌てて教室を飛び出して行った。  世那のクラスは隣で、ひかりは中を見るが世那が見当たらない。 「伊織!ひよちゃん!青葉!世那は?!」 小学校の頃からの仲良しに声を掛ける。 「ひかりおはよ。え?世那そっちに居ないんだ?あれ?どこ行ったのかな?」 伊織はカバンはあるけど?と言い、職員室かな?と首を傾げた。  ひかりは頭を抱えて、3人に事情を話し、学校内を伊織と一緒に世那を探しに回った。  その頃世那は三階渡りへ出る手前の踊り場で体育座りで座っていた。死角になっている所があり、嫌な事や休憩したいと思うといつもここに来る様にしていた。  朝、陽斗にされた事がショックで鬱々としていたが、それでもめちゃくちゃ嫌な訳でもない自分がそこに居て、それに対して自分自身に嫌悪感を抱いてしまっていた。  陽斗の事は出会った頃は本当に大っ嫌いだったが、高学年でクラスが2年一緒になり、その頃には陽斗も思っていたよりはだいぶ落ち着き、五月蝿いタイプの男子だが、他の女子たちと比べると何故か世那には優しく、友達だからと思っていたが、今朝そう言う事では無かったとわかった。 「まさかLOVEの方だったなんて…。迂闊だった…。」 世那はスカートに顔を埋めて溜息を吐いた。 颯人の事で失恋したとわかった時多少のショックはあったが、今朝の陽斗の行動の方が余程ショックだった。 「あいつの側には行かない様にしよう。危険だ…。」  世那はそう呟き立ち上がると、ひかりと伊織が丁度世那を見つけた。 「世那!大丈夫!?」 ひかりが世那をぎゅうっと抱きしめる。 「ひかり…ねぇ、聞いたね。」 「うん。ごめんね、私が陽斗に言ったばっかりに…」 「ほんとよ…期末時期になんて事しでかしてくれたのよ。」 世那とひかりが話していると、伊織も心配そうに見つめていた…そして世那に衝撃の一言を放つ。 「…世那、初キス…陽斗に奪われたって本当?」 伊織の一言に世那は気付き、 「陽斗のバカやろーっ!!」 と、叫んだ。
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