避けないで!

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避けないで!

 期末テストが終わり、陽斗はあれ以来世那からこれでもかと言うくらいに徹底的に避けられ、無視され調子は地に落ちる程絶不調だった。  テストの点数も今まで以上に散々たる物で、担任からいくら部活で成績が良くても勉強の成績がこれでは特待の基準を満たさなくなると叱られた。  更に両親からも「これ以上成績が下がるならジュニアユースを辞めさせるからな!!」と説教され散々な日々を送っていた。 「ああ…死にそう…。」  陽斗は当然の如く部活も身に入らず、シュート率も下がり、大会前にレギュラーを外された。  代わりにライバルの颯人が入ったので余計にイライラと不安が募っていく。 「陽斗、絶不調じゃん。」 奏多が面白がり陽斗の頬を突きながら笑う。 「はあ?ほっとけよ。」 奏多のツツキに更にイライラする。 「原因世那の事だろ?あんな事するから…」奏多は小声で笑いを堪えて体を震わせ悶絶していた。 「…こんな事になるなら、あんな事しなきゃ良かった…。」 破天荒のくせにこうなるとあっと言う間に落ち込む。 「陽斗、世那にきちんと謝れば?世那だってそこまで鬼じゃ無いだろ。」 「近付くと同極の磁石の様に離れて行くんだよ。謝る事すらさせて貰えない…。」落ち込み過ぎてもうどうしようもない程の陽斗に奏多は逆に気の毒だと思うほどだった。 「よし!待ってろ。」 奏多は何かを思いつき、ひかりの居る弓道場へ走って行った。  大会目前で真剣に練習しているひかりの所へ奏多が外から覗き込み、その姿を見たひかりは弓の弦を引く力が抜け奏多の所へ歩いていく。 「どうしたの?」 ひかりは奏多にそこへまぁ座れと促す。 「陽斗坊っちゃんが…」とまで話すとひかりは口の端が上がる。 「ああ?!自業自得だよ。しかも学園ドラマかよ?!って言いたくなるような美術室キス!しかも世那曰く『やり慣れてんの?あの人?ってくらい上手いと思う。』って。世那、経験ゼロだけどそう思ったって。」 ひかりは奏多に陽斗とは修復は難しく無いかい?と話す。 「え?!マジ?!あいつそんなにうまいの!?女子のハートを掴むほど!?とろける様なキスするの?!」 奏多は陽斗から聞いていたのもあり「今日からドラマで勉強しようかな?」と興味津々にひかりに話すが、ひかりからは「…素質の問題もあるだろ?」と言われ、お前は向いていないからやめろと奏多は言われた。 「え?!陽斗ってもしかしてセクシー系エロ男子って事?!」 「んな訳あるかい!アホか?!とりあえず、世那も今回のテストはあれが原因で勉強に身が入らなくてちょっと順位落ちたって嘆いていたし…まぁ本当は仲直りさせた方がいいとは思うけどね。あの二人の空気が悪いと…周りが…迷惑だ。一肌脱ぐか?奏多?悠人も巻き込むけど。」ひかりは何とかするか…と腹を決めた。  その頃世那は美術室からサッカー部の練習を見ていた。陽斗がレギュラーから外されたというのは見ていて直ぐに分かった。颯人が代わりに出ているからだ。  しかも美術室に居ると先日、陽斗にキスされたのを思い出し恥ずかしくなってくる。 「部長、この作品終わったので…これら片付けていいですか?」 ぼーっとしていると1年生の部員に話しかけられ我に返る。 「あ、あぁ…うん。ありがとう。片付けて大丈夫よ。」  世那は美術部の3年生が早々と引退し、7月から部長になった。美術室の管理、部員の管理まで増えて割と大変だと思う事が増え、加えて陽斗との事があり、イライラしたり、不安になったりして忙しい。キスをされたからと言う訳でも無いと思いたいぐらいだが、あれ以来、実は陽斗が気になって仕方が無いが、勉強の邪魔になると自分自身に言い聞かせ、愛だの恋だのは大学へ入ってからだ!と、更に自分に何度も言い聞かせ、陽斗を見ないように、話はしない様にしていた。そうで無いと情け無いがずっと陽斗の事を考えてしまう。 「こんなに悩ませてくれて…陽斗、本当にバカね…。」 世那はポツリと呟いた。  陽斗は美術室をぼけっと見ていた。 世那がチラチラと見える。 「おい、陽斗。最近元気ないじゃん?どうしたんだよ?」 颯人がレギュラーを外された陽斗を気にして聞きに来た。 「はぁ?別に?」 「何か…世那とあった?」 ズバリと当ててくるので陽斗は内心(嫌なヤツだな…)と思いながら颯人を見た。 「やっぱりビンゴか。」 「別に…。」 「無理矢理嫌がる様な事でもしたのか?」 「うるせーよ!おまえ!!」 「…何だ当たりか!一体何をしたんだよ!」 颯人は驚き目を丸くして聞く。 「…何か、世那見てたら・・・こいつ、綺麗だなって…気がついたら…抱き寄せてキスしてた…。」 陽斗のその発言に颯人は「あり得ないお前…」と固まる。 「けど、それがそもそも間違いだった…。颯人…周りに言うなよ。」 「言わねーよ。てか言える訳ない…けど…それは…。ちょっと…どうなの?お前?」 颯人は「変態じゃないか?教師にバレたらヤバいだろ?」と呆れる。 「わかってるよ!!だから落ち込んで…世那に無視されるし…」 「当たり前だよな…付き合ってもいない男にそんな事されたら…。」 颯人までが「当然無視されるよ…。仕方ないな。」と言い、陽斗は遠い目をした。 「世那、夏休みにさぁ、遊びに行かない?遊園地とか、プールとか。」 ひかりは悠人、奏多と『世那、陽斗仲直り大作戦』を敢行した。  そもそも仲直りをしてもらわないと陽斗の精神状態のアップダウンのせいで周りに多大な被害が行く事を想定していた。 「…陽斗も誘って、仲直りさせようとしてるんでしょ?」 世那はやはりだれよりも鋭い。 「あー…さすがっす。」 ひかりは目が泳ぐ。 「嫌よ。あんな変態と遊びに行くの。」 「世那ぁ…お願い!周りに被害が!飛び火が!お願い!今回だけは許してやって!」 ひかりは陽斗の昔の馴染で頭を下げる。 「…はぁ…あんたまで頭下げるなんて…許すしかないじゃない。陽斗、テストの点数ヤバかったんでしょ?特待狙いなのに。もう直ぐ試合なのに…レギュラー外されたよね?ほんとに、陽斗が悪いのに!何で私が寛大にならなきゃいけないのか理解に苦しむけど、今回だけは特別にゆるします!」  世那は胃から何か出そうなほどストレスが凄かったが、自分の為にも許す事に決めていた。選手から外された辛そうな陽斗の顔を見るのも辛かったからだ。  いつも自信満々の陽斗が見た事もない程落ち込み、いつも以上にテストの点数が悪く、悠人からも「頼むから、友人として頭下げるから、今回だけは許してやってくれ!」と言われていたからだ。 「じゃあ!決まりね!遊園地行こう!プールは…露出が多めになるから陽斗の目には毒だから。」 ひかりはそう言い笑って、二人で下校した。 翌日・・・  世那は早目に登校し、校庭でサッカー部の練習を見ていた。校庭の木々は朝から蝉が鳴き五月蝿いくらいだ。 陽斗がなかなか来ず、フラフラしていた奏多に声をかけた。 「奏多、おはよ。」 「おはよー。あれ?世那どうしたの?」 「うん…陽斗は?」 世那がそう言うと奏多はぱあっと顔が明るくなり、「陽斗を許してくれるの?!」と喜ぶ。 「…え?…あんたも知ってんの?」 世那は目眩が起こりそうだと思いながら聞く。その時、颯人が通りかかり「お、世那じゃん。こないだ陽斗に無理矢理キスされたんだってな。大丈夫か?」と聞いてきて、よりにもよって颯人に聞かれた事もそうだが、世那は驚き仲間内皆んなが知っているとはどう言う事だ…と眉間に皺を寄せムカムカして来た。  そこへ丁度陽斗が着替えて出て来た所へ世那は陽斗の首根っこを掴み、皆んなが居ないところへ連れて行った。 「陽斗を許そうと思ったけど…とりあえず先ず聞くわ。何で奏多も颯人もあんたと私が…の事知ってんのよ!?」 世那はイライラし始め、陽斗に怒り出した。 「あー…、奏多はあの時…あの後俺が落ち込んでいたから…何をしたんだ!?と聞いてきて、正直に話した。颯人に関しては俺があいつの言葉遊びに引っ掛かったから…。」世那の形相に陽斗はこれまでに無いほど目が泳ぐ。 「そう……わかった。陽斗、今回は皆んなに免じて許すけど…次また無理矢理抱き締めたり、キスしたら絶交だからね!!」世那はわかった?!と念を押して言い聞かす。 「手を繋ぐのも?」 「私はあなたの彼女じゃない!!」 「ケチ…」 「陽斗!!」 「…ごめん、世那。お前の許可が出る迄しない様にする。」 「未来永劫出ないわよ!!」 世那はプンスカ怒っていたが、陽斗は口をやっと聞いてもらえ、その後の部活からはまた人が変わった様に動きがよくなり、顧問や部活仲間らは、(立花の力すげぇ…)と感心していた。  夏休みに入り、最初の週末。運動部の市内の中学の大会が始まった。  世那は美術室から運動部の人らがそれぞれの会場へ行くのを静かに見ていた。 「世那〜。来月の展示会の作品出来た?」ひよりが興味ありげに覗きに来た。 「ひよは?出来たの?」 「うん、あと仕上げ。あ、ねぇ、さっき青葉から聞いたけど…陽斗が世那の事好きってほんと?」 その言葉に世那は動揺して絵筆を落とす。 「大丈夫?」 「う、うん。はぁ?何で?てか、何でそんな話に?」 何処まで広がっているんだと不安になる。 「うーん…何かね?澪が言っていたらしいんだけど…アミが小学校から中1の時に陽斗が好きだったじゃん?」 世那はそう言えばそうだったな…と、思い出す。 「うん。」 「でね、告ったら…陽斗がずっと好きな子居るからって断ったんだって。」 「はぁ…。」 世那は初耳だ。 「で、アミは観察していたんだって。」 「こ…怖…。」 「だよね、怖いよね。で、結論が陽斗のずっと好きだった子は世那だった。」 「……そう…なんだ…。」 「で、ここからがもっと怖いんだけど、だから悔しいから世那が好きだった颯人を奪った…そうです。」 ひよはこわーい!と言って首を振る。 「でもさ、選んだのは颯人でしょ?だから、問題ないじゃない。陽斗だって気持ちがあるからいい加減な事してアミを傷付けたくなかったからでしょ?」 「うん…だと思うけど。」 世那はもう過ぎた事だし、陽斗がたとえ自分の事を好きでも、自分自身は夢を叶える為に今はそんな事している暇は無いとひよりに話し、陽斗の気持ちにも答える事は出来ないと心の中で思っていた。  その頃、陽斗は世那に許してもらったおかげで試合当日も絶好調でレギュラー復帰で試合に出る事が叶った。  動きも格段に良く、試合に勝てそうなので3年生らは「立花様〜!」と世那を崇め奉るような言葉が飛び交っていた。 「凄いよな。世那が許しただけで陽斗の動きが前よりもめちゃくちゃ良くなるっていう…愛の力は凄い。」奏多はウキウキして試合を見て興奮している。 「…世那と陽斗って付き合ってんの?あれから…」 颯人は気になり奏多に聞く。 「ん?付き合ってないよ。付き合えばいいのにって思うけど…世那が絶対オッケーしないんだよな。何か医療関係の仕事に就きたいから、愛だの恋だのは今は興味無いそうです。」 奏多は前に世那が言っていた事を颯人に話した。 「いや…今の話聞いていて思うんだが…その前に世那は陽斗の事好きなのか?」 「うーん?そういえば…そうだよね。何かそこに居るのが当たり前で、陽斗が世那と話すのが…自然で普通で…世那も息をする様に普通に陽斗と居る時もあるし…どうなんだろうね?てかさ、颯人彼女いるんだよね?アミだっけ?澪から聞いた。」 奏多がそう言い出した途端、颯人は「トイレ」と言って行ってしまった。  その時、陽斗はシュートを決めた所で仲間で祭りの様に盛り上がっていた。  昼過ぎ、自宅で勉強をしていると世那のスマホに奏多からメッセージが入る。 「陽斗がシュート決めて勝ったよ!世那ありがとう!」写真付きだ。 陽斗がピッチで走ってシュートを決める所だった。 「陽斗、やったね。」 奏多にメッセージを送り、陽斗のスマホにもメッセージを送った。 (試合、勝ったみたいだね。おめでとう!でもまた午後から試合あるんだよね?頑張って!)  簡単にそうメッセージを送ると陽斗から直ぐに電話がかかって来た。 『勝ったぜ。俺の天才的なプレイとシュートで。』陽斗はいつも通りの通常運転コメントを世那に話す。 「…調子こいてると足元掬われるわよ。昼からの試合も相手チームの動きよく見てよ。周りのチームは陽斗を絶対マークして来るから。」 世那は分析して陽斗に気をつけろと言う。 『…お前、暇?』 「…暇じゃない。」 『競技場来ない?』 「行かない。」 『…待ってるから!』 陽斗は来いと言って強行で電話を切る。 いつもの事だ。  世那は溜息を吐き仕方なく準備し、競技場へ向かった。  競技場へ着き、観客席にそっと座る。 あまり目立つ事が好きでは無いので、出来るだけ目立たない様にしていた。  周りを見渡すと前の席の方にアミと澪が居た。 恐らく颯人の応援だろう。 そう思っているとまた、陽斗がシュートを決めて点が入った。賑やかくなる。 (良かった。電話で言ったことちゃんと守ってる。) 世那は安堵して試合を最後まで見た。 陽斗からメッセージが幾つも入る。 (どこに居るんだよ!) (白のTシャツの髪下ろしてるのお前?) (早く、こっちへ来い。) (世那、頼む来てくれ。) (世那、お願い!) どんどん入って来る。 参ったな…と困っていると、 「世那!!」 陽斗が痺れを切らし、観客席に探しに来た。 「ひっ、陽斗!!」 二人のやり取りにアミと澪が気付き、近付いてきた。 (うわー…めんどくさ…。) 世那は心の中で呟く。 「世那来てたんだ!」 澪が世那と陽斗の顔を代わる代わる見てニヤニヤする。 世那は仲良し組で観に来れるの運動部じゃない私だけだからと適当に誤魔化した。 だが、アミだけはチラッと世那を見て、 「私も颯人のとこ行こう。」 と言い、澪の腕を引っ張って控室へ行ってしまった。 「何だ?アイツ?」 陽斗は感じ悪いな相変わらずと言い、世那を見る。 「アミ…小学校6年の時だっけ?陽斗の事好きだったんだよ?覚えてる?」 世那は昼間ひよりと話した事を陽斗に話し出した。 「ああ。何かわざと鉢合わせさせようとしたりしてたやつだろ?正直迷惑だった。俺、アイツのことそういう風に見てなかったから。」 「うん。ひよりから聞いた…陽斗が……あ…何も無い。」 世那は(はっ!)と気付き、陽斗のお願いも聞いたから帰るねと言って帰ろうとした時、腕を掴まれた。 「世那、明日時間ある?」 「え?夏期講習があるけど。」 「一日中?」 「いや…昼まで…。」 「明日昼から会えない?」 世那は黙ったまま顔が引き攣る。 「何もしないよ!ただ、一緒に行きたいとこがあるんだけど。」 「…わかった。いいよ。塾終わったら連絡する。」 「ありがとう。」 世那は「また明日。」と言って帰宅した。
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