初デート

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初デート

 翌日世那と会う約束に漕ぎつけれた陽斗はクローゼットの前で座り込んで居た。 「まともな服が無い・・・。」  普段着る服が幼い頃からサッカー少年だったという事もあり、スポーツブランドのジャージばかりでデートというものに着て行くような服が自分のクローゼットの中に見当たらず撃沈していた。  どうしようか困り果てた所へ真帆が丁度部屋へ入って来た。 「ねぇ陽斗、あんた修正テープ持って・・・どうしたの?」  クローゼットの前で、今にも泣きだしそうな顔をした、普段頭にくるほど生意気な弟が、この世の終わりかというくらいの困った顔をして姉である真帆に助けを求める様に見つめて来る。 「あした・・・ちょっと出かけるのに・・・服が・・・」 「有るじゃん。」 「いや、そうじゃなくて・・・。」  弟がもじもじしてはクローゼットを見てため息を吐く辺り、真帆は女のカンで陽斗に聞く。 「デートかね?」 「・・・うん。」 「世那ちゃん?」 「・・・はい・・・。」 「えっ!!付き合い始めたの?!」 「違う!!」 陽斗は真っ赤になって否定する。 「じゃあいつも通りの格好でいいじゃない?」 真帆はいつも通りのスポーツブランドのジャージでいいじゃないか?と言ってくるが、陽斗は初めて二人で出かけるのにジャージは嫌だとのたまう。 時間を見るとまだモールが開いている時間だ。 「姉ちゃん、金貸して。」 「やだ。お母さんに頼めば?」 「そんな事いきなり言ったら・・・」 「お父さん未だ帰って来ないんだもの、お母さんに頼むしかないわよね?」  陽斗は恥ずかしいからイヤだと言いつつも、世那とのデート?でジャージの方がもっと嫌じゃないかと真帆に咎められ意を決して母の所へ頼みに行く。 「母さん。頼みが・・・」 陽斗は俯きながら晩御飯を作っている母親に声を掛けた。 「・・・なに?新しいジャージ?スパイク?つい最近買ったばかりじゃない。」 それ以上恥ずかしくて言えない陽斗に真帆が助け舟を出した。 「お母さん、陽斗ね、明日・・・世那ちゃんと遊びに行くんだって。陽斗、ジャージばっかりじゃん?普通の服が欲しいんだって。買ってあげて。」 真帆が言うと母親は口がポカンと空き、持っていた菜箸は手から落ち、陽斗をまじまじと見た。 「デート?」母親は陽斗に確認する。 「はい・・・。お願いします、お母さま。」恥ずかしそうに真っ赤になる息子を見て母親はカバンを持ち、「行くよ。」と行って陽斗は服を買いに行ける事になった。 「姉ちゃん、ありがとう。」 真帆は「よかったね。」と笑った。  その夜、世那はひかりに今日の事を電話で話していた。 『え!?陽斗とデート?!』 ひかりはびっくりしていつも以上の声で叫ぶ。 「ひかり…声大きい…うん…デートと言うか、何か連れて行きたい所があるからって。」 昼間言われた事を話す。正直先日の事もあり、警戒もする。だが、それよりもただ陽斗の側に居たいと純粋に思ってしまう自分が居た。 『そっか。楽しんできて。』 「緊張する。」 『え?ねぇ・・・世那・・・もしかして・・・陽斗の事・・・。』 「・・・う~ん・・・まだよくわからないけど、彼の事、好きだと思う。」 世那は先日のキス事件から余計に陽斗が気になって仕方なく、勉強しなきゃならないのに陽斗の事で頭がいっぱいでどうしようも無いと嘆いた。 『陽斗の強行突破勝ちみたいになったね。』ひかりは思わず笑った。 「本当よ・・・あの人天然でああいうことするんだもん。恐ろしいわよ。」世那は先日のあのキスで情けないが完全ノックアウトされたと恥ずかしそうに言った。 『でも、世那。ありがとう。』 「何がよ?」 『陽斗のこと好きになってくれて。』 「え?何でひかりが言うの?」 『小さい時からあいつを奏多と悠人と見て居てさ、どうしようも無い奴だけど、世那の事だけは本気で大切にしてる。だから頼むね。出来たら一生涯。』 「えっ!?でも・・・陽斗がサッカー選手になったら一生涯は…分からないわね。」  世那は不確かな約束は出来ないけど、出来るだけ陽斗と居られる様にすると約束した。 翌日…  明け方、陽斗は緊張で早く目が覚め庭でシュート練習をしていた。 ボールの音で父親が珍しく起きてきた。 「陽斗、おはよう。」 「あ、父さんおはよう。」 「昨日はいい服が買えたか?」 父親は母親から陽斗の事を聞き、にこにこして話しかけて来た。 「あ、うん。ありがとう父さん。これからはこういう服も買わないとな…。と、思った。」 陽斗は恥ずかしそうに笑う。 「今日、お前がずっと好きだった世那ちゃんと二人で遊びに行くんだってな。」 「うん。どうしてもあげたいものがあって、それを買いに行く。」 「そうか。なぁ、陽斗。一つだけ父さんと母さんと約束してくれ。」 父親は改まって話し始めた。 「何?」 「いくら彼女が好きでも、彼女を傷つける様な行為だけはしない事。意味、わかるな?」 「うん、わかってる。や…まだ付き合ってないけど…大切だからこそきちんと境界線を引く事。あ…でもキスや抱き締めるのもダメ?」 陽斗が言うと父親は強張り、 「あのな…キスかぁ…記念日くらいなら?うーん…とにかくそれ以上はダメだからな!」 父親は思春期は難しいと言いながら部屋へ入って行った。  夏期講習が終わり、世那はスマホ片手にスマホと睨めっこしていた。 これから陽斗と遊びに行くのだが、緊張してなかなか電話が出来ないでいた。 「世那!何してんの!?」 伊織が裏から話しかけて来て世那はびっくりしてスマホを落としてしまった。 「いきなり、びっくりするからやめてよぉ。」 世那はスマホを拾って砂を払い、また画面を注視する。 「どうしたの?」 「ひ…陽斗に連絡しないといけないんだけど…緊張して…。」 世那がガラにもなく緊張するので、伊織は爆笑しだした。 「ねぇ、きっと陽斗待ってるよ?…ん…てか、付き合ってんの?」 伊織はまた私に黙ってたの?とジロリと世那を見る。 「いや…まだ…はっきりとは…そういう関係じゃないけど…今日なるかも…。わかんなああい!!」 世那は真っ赤になり叫び、塾の同級生たちも世那に注目した。 真っ赤になりながら少し人が居ないところへ移動して世那は覚悟を決めて陽斗に電話をかけた。 ワンコールかかるかかからないかで陽斗は直ぐに電話に出た。 『もしもし!終わった!?』 「う…うん。終わった。お昼は?食べてからだよね?」 『食べたらメール送って。直ぐ迎えに行くから。』 「うん。待ってる。」 電話を切ると、伊織がにやにやして見ていた事に気付く。 「何よ?」 「うん。待ってる。…って!世那可愛い!!陽斗もそりゃ惚れるわ!陽斗の長い片思いがやっと報われるもんねー。陽斗はきっと大切にしてくれるよ!」 伊織の冷やかしに世那は照れて怒りながら自宅へ戻った。  食事をし終わり、世那が連絡して数分で陽斗が迎えに来た。 「は…早いね…びっくりした。」 世那は目を丸くして陽斗を見た。 「実は…待ちきれなくて昼ごはん食べてから学校で待機してた…世那の家から学校まで直ぐだから…。」 照れて言う陽斗に笑った。 「何か…服もいつもと違うね…。いつもスポーツブランドのジャージばかりなのに…。」 世那はいつもと違う彼の服装に気付いた。 「あー…女の子と二人で遊びに行くのにジャージはちょっとって…」 「ありがとう。気遣ってくれたのね。でも、いつも通りでよかったのに。」 「初デートだから!」 「え?!まだ付き合ってないし!!」 世那は「違うし!」と騒いでいたが、陽斗は笑って「そのつもりだった。」と言って世那を揶揄った。 「じゃあ、とりあえず着いてきて。」 自転車で駅まで行き、その後電車に乗った。夏休みで人も多く駅の構内は賑やかかった。陽斗について行くのに精いっぱいの世那に気付き、陽斗は手を繋いだ。 「え?」 「迷子になるぞ。」陽斗が微笑み、世那は胸がきゅんとしてしまう。(ヤバい、ヤバい・・・。)と頭を振り、何とか平静を保とうとしたが、恥ずかしさと緊張で頬はずっと真っ赤だった。 「暑い?」陽斗が心配して聞いて来る。 「だ!!大丈夫!!」あなたのせいで緊張してる!なんて言えず、ただ陽斗に手を引かれ歩いた。  駅を出て、公園通りに出た。人ごみを抜けたので手を放すかと思ったが、陽斗はずっと離さなかった。通りを歩きながらお互いの話をしたり、友達の話をして盛り上がり笑いっぱなしで世那はあごが痛いとまた笑った。 「ここ。」陽斗が指をさした場所はアクセサリーなども売っている雑貨屋だった。 「可愛いお店だね。」  二人で中へ入ると店員が陽斗を見て声を掛けて来た。 「陽斗君、いらっしゃい。」 「こんにちは。急に頼んですみませんでした。」 陽斗は何かを注文していたらしく、カウンターへ向かう。世那も(何だろう?)と思いついて行った。  店員が箱を取り出して開け、陽斗が確認する。 「うん、ありがとう。希望どおりだ。」 箱の中を覗き込むとシルバーのペンダントが2本ある。 「わぁ、綺麗。」 陽斗は世那の嬉しそうな顔を見て自身も嬉しくなる。 「世那、もう少しこっちへ寄って。」 「え?」 陽斗の言葉に思わず警戒する。 「お前…ここまで来て警戒するなよ…。」 「そ……そうよね。」 陽斗は世那の髪を横へずらしてペンダントを着ける。 「どう?」 「綺麗…ペンダントトップに誕生石?あれ?これ私のじゃない…。」 「俺の誕生石と俺の名前のイニシャルが付いたのを世那に。世那の誕生石と世那の名前のイニシャルが付いたのを俺が着けるの。」 「………」 「黙るな…。」 「ふっ…ありがとう。まだちゃんと交際も申し込まれて無いのに。先にプレゼントなんて、陽斗らしいわね。」 「…俺は常々愛情を示していると思うんだけど?」 「言葉で言わなきゃわかんない。」 世那はプイっと横を向いて拗ねた。  陽斗は片膝を下に付き、世那の手を取り、顔をじっと見た。 「世那、小学校で初めて同じクラスになった時からずっと好きだった。俺の彼女になってくれ。頼む。本当に心から世那が好きだ。お前の為に絶対にサッカー選手になる。だから付き合ってくれ!」  周りには数人客も居て、店員も目の前にいて、世那は恥ずかし過ぎて頭が真っ白になった。死ぬ程恥ずかしかったが、陽斗の迷いの無い堂々とした公開告白に真っ赤になりながら何度も頷き、周りの大人達は拍手をしてくれた。 「陽斗…ズルい。」 店を出て近くの公園のベンチに座り、世那は陽斗に抗議していた。 「何がだよ?」 「だって!あんな皆んなの前で片膝付かれて、公開告白されたら…断れないじゃない…」 「え?断るつもりだったのかよ!?」 陽斗は耳を疑う。 「違う!断らないわよ!嬉しかったけど死ぬ程恥ずかしかった…。」 世那はそう言って手のひらで顔を覆った。 「世那。」 陽斗は世那の手を顔から離し、世那の目を見た。 陽斗の好きな世那の目。瞳の色が少し薄い茶色で小学校の頃からついつい世那の目の色を見てしまう。 そして、優しくキスをする。 先日の様な突然のキスでは無く、壊れ物を扱う様な優しいキス。 「世那、お前の事大切にする。だから、キス以上の事もしないし、お前が嫌がる事もしない。お互い責任取れない様な事も絶対しない。約束する。だから…ずっと側に居てくれ。」 陽斗は優しく抱きしめる、世那の存在を確かめる様に。 「私も陽斗の事…大切よ。初めて会った時は大っ嫌いだったけど。でも…その後からはとても私には優しくて…嫌な事された事もあったけど、でも、こうなる為に必要な過程だったならば大切な過程だったのね。…陽斗、好き…。」 ここに、変態サッカーバカと学年の秀才女子のカップルが誕生した。
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