愛に溶ける人魚姫

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 ここには、海にいたら見られないものが溢れている。ここで見るものすべてが目新しく興味を惹かれるが、人魚の心は晴れない。  人魚は海が恋しかった。  仲間も居らず、波のさざめきも、海の中に響く生物の独特な声も聞こえない。  海水を伝って届く遠くの囁きに、毎夜そっと耳を傾けるのが人魚は好きだった。  人魚を買った人間は、人魚が泳ぐ姿を眺めながら毎晩酒を飲む。気まぐれに魚を投げ入れるが、すでに死んだ魚を与えられて人魚は面白くない。普段はおとなしく、美しい容姿を鑑賞されている人魚だが、彼らは男女問わず海の狩人なのだ。自分で魚などを捕獲し、自由に海を泳ぎ暮らすのが本来の姿だ。いくら愛情を注がれても、狭い水槽の中では息苦しくて、呼吸をしていても死んでしまいそうだった。  ある日、水槽の岩場近くまで飼い主と共に女がやってきた。水槽は大きいためその空間は吹き抜けになっており、岩場のある上の方は二階ホールに続いている。 「どうだ、珍しいだろう」 「へぇ、キレイなものね」
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