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「女神だと思ってんなら、私のことを優先させなさいよ! あなたの神が死ぬのよ」
「そうだな、……女神は一人いれば十分だ」
はあ?、と言う言葉を発せられないまま、女は底まで一気に引きずり込まれてしまう。人魚のためにこの水槽は水深がかなりある。一気に引きずり込まれてしまえば、上がるのも難しい。
女の口からは透明な空気の泡が吐き出され、それが陽の光を浴びて美しく煌めく。硝子や水面の揺らめきが、天井に映し出されるのも美しい。女が生きたまま食べられる痛みに叫ぶ度に、泡が一気に吐き出された。
だんだんとその量は減り、その間にも人魚は女の腕や足を捕食していく。水が赤く染まり、人魚の周りを揺らめいた。
「女神に独り占めされるほうがいい」
女の出す泡は消え、血だけが水へと溶ける。女の命は血と共に水に溶けて消えていった。
数日後、男は人魚を連れて海に向かう。潮の香りが近づくにつれ人魚の顔が綻び、男を見る目が柔らかくなった。そのことに男の口角が上がる。
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