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独り占めしたい、必要とされたいという気持ちが、そう簡単に消えるはずがない。男は海に人魚を帰す気などなかった。それでも海へ連れてきたのは、人魚の笑った顔が見たかったからだ。
砂浜に降り立つ前に、人魚につけていた首輪にリードを装着する。驚きに人魚は目を見開くが、男は気にせず人魚を抱きかかえ波打ち際へと向かう。
そこは、人魚が捕らえられたと聞いた浜辺だった。
「たまには里帰りをさせてあげるよ」
その言葉に、人魚は大きく頭を振り嫌だと意思表示をする。しかし、男は甘い笑みを浮かべたまま人魚に告げた。
「俺の側にいてくれないと困るんだ」
嫌だ、嫌だと言うように、人魚は男の腕の中で暴れる。足のヒレが男の腕を叩き、一瞬離してしまうとそのまま浜辺を這って進む。
男はリードを掴んでいるからか、焦る様子もなく人魚の好きなようにさせていた。
海へ戻りたい一心で、人魚は砂だらけになりながらも海へと向かう。鱗の間に砂が入り込んでも、人魚はただひたすら海を目指した。
そして、ようやく海に手が届くといったところで、男にリードを引かれて動きが止まる。
「勝手に戻っちゃだめだよ」
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