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でも頑張ったご褒美だよ、と男は人魚を抱き上げると一緒に海へと入る。海水が膝にきたところで歩みを止め、人魚を海へと離した。
その瞬間、人魚は泡となって消えてしまう。男はリードを引くがその先には首輪しかなく、人魚の姿は見当たらない。
一瞬の出来事だった。
海水に触れた刹那、人魚は男を振り返ることもなく泡となって消えた。おとぎ話の人魚姫の最後のようだった。
人魚姫とは違って、人魚は男に愛されていた。
しかし、海の方が他の者から愛情を受けた人魚を許さなかったのだ。彼女の声を陸の者に聞かせないために、閉じ込め自分の身に隠してしまった海。戻ってきたとしてもそれは海の愛情を注いだ人魚ではなくなっていた。そのため、海に入ることなく、人魚は海の藻屑と消えたのだ。
男は膝をつき、泡となった人魚を集めようと必死にすくうが、無情にも指の隙間から流れ落ちていく。
男の元には首輪とリードが、海には人魚の泡と声が遺されたのだった。
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