未来を思い出して

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 何ごとにもタンクがあって、その容量以上のものを溜めることはできないし、中身がなくなれば終わりをむかえる。  例えば毛根の下にあるタンク、インクが尽きたら染まらなかった髪が生えてくるのだそうだ。知識を蓄えるのもそう。詰め込めるだけの時期を越えると取捨選択が行われる。覚えたことと覚えること、天秤にかけて不要をはじき、必要をためていく。  秘密にしておきたい宝物の箱には限りがあって、入れるものは選ばなくてはならない。座り込んだ自分の周り、床の上に一つ一つ広げて考える。これは大事、これはきっと、なくても大丈夫。  命も一緒。  生まれた時には満タンだったタンクの中身が少しずつ減って――あるいはタンクが破損して――それが尽きたらおしまい。 「ね」  血まみれになった濃い灰色の毛玉に手を置くと、まだほんのり温かかった。  無意識で鼓動を予想していた手のひらが、感じた現実との違いに戸惑って指を震わせる。押してしまった皮膚は、むにゅ、として柔らかかった。  どうぞ安らかに。  両手を合わせて少しだけ頭を下げる。深く息を吐くと、鈍く殴られていたような頭の痛みが薄らいだ。  電話をしてから十分ほどはたっただろうか。しばらくしたら然るべき人が来て対応してくれる。部活もしていない学生は待っているのが正しいのかもしれないけれど、面倒事は避けたかった。  ごめんね。優しい人間じゃなくて。
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