未来を思い出して

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 こういうの、何て言ったっけ。頭の中で円が重なる。そう、十分条件と必要条件。  ただ十分ではなかったとして、死んだ本人が望んでいたらいいのでは。自分でも手配できてお金も安く済んで、人に迷惑がかからない。簡単にいなくなれる。  でも回収したり燃やす人は嫌だろうか。僕だったら? 「だめか……」 「何が?」  顔をあげて思わず固まった。いつからいたのだろう、真木(まき)が後ろから顔をのぞきこむようにしていた。 「おはよう兼古(かねこ)」 「……おはよう」  「よ」にアクセントがついた挨拶は、今の僕の知り合いでは真木だけだ。 「おはよう。それで?」  二度目は僕に合わせてか、いつも聞きなれた発音になる。  「――人間も死んだら、燃えるごみにできないかと思って」 「わあ物騒」  言葉の割に楽しそうな声だ。こうして何か聞いてくる時の真木は、だいたい楽しそうであるのだけど。 「でも合理的だと思ったんだ。葬式もしなくていい」 「なるほど?」  真木はパンツのポケットに両手を突っ込んで顎を引いた。これは同意ではなくただの相づち。長い付き合いではないのに、どうしてか真木の言動の意味は分かりやすい。 「でもだめなの?」 「自分が焼く側だったら嫌かもしれないって思った」 「仕事になればやる人はいるんじゃないかな。動作としては今とそんなに変わらない。それより問題は倫理だよ」 「死んだ時、お悔み以外は不謹慎なのと同じ」 「そうそう」  真木は僕を見て、ちょっと笑った。
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