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真木は顔を上げて僕に目を止めた。
その目を少しだけ丸くしてから、視線はじ、と動かない。問われている。どうしてかそんな焦りにかられて、僕はうっかり口を滑らせた。
「――死にたかったの?」
真木は瞬いた。それから考えるように斜め上を見て、もう一度僕を見てから自身を指差した。
「あ、いや、猫が」
片手を振って否定する。どんな不躾であろうと、自殺を試みていたわけでもない、初対面の人に聞く台詞ではないだろう。
「おめでとうって言った、から……」
聞き間違いだったかもしれない。しぼんだ自信に手までしょぼくれて下がっていく。普通はそんなことを言わない。だって変だ。
「ああ」
しかし真木は得心がいったように頷いた。それから少し間を置いて、ポケットからハンカチを出して猫に被せた。もう片手はゆっくり、薄手のコートのポケットを探るように叩く。スマートフォンを取り出すと、指を滑らせてから耳に当てた。
「もしもし」
あ、同じだ。
電話口で名乗った声に、僕は真木という名前と、同じ学部で同じ学年だったことを初めて知った。オリエンテーションにいただろうかと考えていたせいで、その電話で真木が何を話していたかあまり覚えていない。耳に入った断片をかき集めるに、大学に電話をして亡骸の引き取りを依頼したらしかった。
「――予祝」
電話を切った真木は立ち上がった。
「……よしゅく」
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