未来を思い出して

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 自分で言っておいてなんだが嫌かもしれない。  眉を潜めた僕を横目に、真木は「お葬式が嫌なの?」と聞いた。カーキ色のスニーカーが小石を蹴る。転がった小石は側溝の金網に落ちていった。  お葬式。子どもの頃の思い出。 「嫌」  黒、黒、黒、黒。葬儀だから白黒のはずだったと思うのだけれど、僕の記憶では黒が浮き上がっている。 「どうして?」  たぶん良く晴れた日だった。外がとても明るくて眩しかった。誰の顔にも灰色が貼りついて、服や靴が擦れる音がやけに響く、静かなのにうるさい空間。僕はずっと息を潜めていた。 「どうして、みんなで集まるんだろうって」  息苦しかった。  心臓のところにぽっかり穴が空いていたから、酸素を上手く取り込めなかった。身体がひどく重かった。それなのに着慣れない堅い布に身体を通させられて、人ごみに放り込まれた。  あの服は人前に出るための鎧だったんだと思う。穴を吹き抜ける風を防ぐための。穴を隠して大丈夫に見せるための。  真木がふらりと横にそれる。  道沿いの公園。金網に這った細い蔦に指を絡ませた。柔らかそうなそれは先っぽでくるりんと渦を作って、真木に揺らされてお辞儀をした。白い小さな花をあちこちに咲かせ、紙風船みたいな緑色の袋をたくさんくっつけている。  ふかふかで柔らかそう。 「一人が良かったの?」 「――うん」
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