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本当は、ああいうところにいたかった。僕は鎧なんていらないから、柔らかくて温かい布団に一人で潜り込ませてほしかった。ぎゅっと丸まっていればきっと息もしやすかった。
どうしてわざわざ知らない人に囲まれなければいけないのか。落ち着かない場所で泣いたりできない。だってちゃんとしないといけないから。
何も考えられない。考えたら空いた穴が痛い。痛いと思ったら泣いてしまう。「かわいそうに」そんなことないよ。「辛いだろうけど」そんなことないよ。
聞こえる声に心の中でずっと答えていたら、部屋から出る頃には不思議と大丈夫になっていた。でも本当は、一人にしてほしかった。
「どうして?」
真木は歌うように言う。
「どうして、一人が良かったの?」
「どうして」
だって
「一人だったら――……」
一人だったら、僕は、
ちりんちりん。
肩が跳ねる。反射で端に避けると、僕と真木の間を自転車が通って行った。危ない。風が吹き抜けて、後ろ姿は数メートル先の東門に吸い込まれていった。
どこか遠くで笑い声が上がる。心臓がどんどんと音を立てる。
「――人を避けさせるためにベルを使うの、自転車でもだめらしいね」
突っ込まれるよりはいいけど、と真木はまた歩き始めた。
その背中で深い緑のリュックサックが揺れる。懐かしい色。――懐かしい、とは。
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