私の恋はアオハルならぬアカハル

2/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
「失礼します」 ノックをして入った保健室では白衣の養護教諭がパソコンに向かっていた。 「あら、怪我人?」 こちらに気付いた先生が振り向く。 「ちょっとこの子が切りまして」 そう言われて軽く会釈すると、先生はなんとも言えない顔をした。 「そっか。はい、ちょっとこれ持って座って」 そう言いつつガーゼやら包帯やらを手渡される。 どうやらこのまま治療するらしい。 大人しく左腕を出すと先生がアルコール綿で拭ってくれる。 「これで良し」 そう言ってガーゼを当て包帯を巻き始める。 慣れた手つきだったのであっという間に処置が終わった。 「ありがとうございます……」 お礼を言うと先生は微笑んだ。 「いいえ、いつでも来ていいから」 「はい……」 「ほら行くわよ」 「うぅ……」 返事をした瞬間に引きずられるようにして廊下に出る。 そのまま階段の方へ連れていかれた。 「どこに行くんですか」 「屋上」 「なんで、」 「教室に戻りたくないからよ、そもそもその状態で戻れるわけ?」 「……」 諦めて抵抗をやめると、彼女は足早に階段を上った。 屋上へと続く扉を開けると生ぬるい風が吹き込んでくる。空を見上げると雲一つなく晴れ渡っていた。 「もう夏ですね」 私の呟きに答えが返ってくる。 「跡はどうするつもりなのよ」 日差しに目を細めた彼女は、屋上に来る前の顔より少し弱々しく見えた。 「さっき聞かないとは言ったけれど、貴方の行為を肯定するわけではないから」 「分かってますよ」 私はフェンスにもたれかかって答える。 「ねぇ、あなたはこれからどうやって生きていくつもりなの?」 「それはどういう意味です?」 私が首を傾げると、彼女も隣に来て同じようにもたれた。 「あなたは、一時的に気分が良くなっても結局根本的な解決にはならないことをわかっているはずよね?それなのになぜ続けるのかしら?」 私は彼女の言葉に内心溜息をつく。……やっぱりこの人は私なんかよりもずっと頭が良い。 だからこそ、彼女の、私が何を考えているか、どうしてこんな事をしているかなど全て見透すかのような口調が気に食わなかった。 「……関係無いじゃないですか」 つい強い言い方になってしまった。 しかし、彼女はそんなこと意にも介さない様子で私を見た。 「あるわ」 「ありますか?」 「えぇ、私はあなたと少なからず関係がある。知り合いが傷ついていくのを見ているのは…、そうね、悲しくなるのよ」 「……」 「だから、これ以上悪化する前に止めてほしいの。私の為に。」 ……ずるい人だと思った。そんな風に言われたら何も言えなくなってしまうじゃないか……。 でも今更止められないのだ……。だって絶望を消し去る方法がわからないのだから……。 黙り込んだ私の肩を彼女が強く掴む。 「ねぇ、教えて。何があったの?」 まっすぐな目だった。 真剣な表情に思わず目が泳ぐ。 「……嫌です」 そう言って俯くが、今度は正面から抱き寄せられた。 「っ!!離してくださ……い」 力が入らなくなりその場にへたり込む。込み上げてきた吐き気に思わず口を押さえた。呼吸が速く、浅くなっていく。 「ごめんなさい…」 震えた声に顔を上げる。 そこには泣きそうな顔をした彼女と、その背後に広がる青空があった。 「本当は気付いてた。あなたの様子がおかしいことに。」 耳に届く声は細かった。 「なのに見て見ぬ振りをしていた。本当にごめんなさい。」 突然謝られて頭がついて行けなくなる。 「私、貴方の……」 「ごめんなさいね、そろそろいいかしら?」 不意にかけられた第三者の声によって中断された。 振り向くと、そこにいたのは保健室の先生だった。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!