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4.平凛の春休み
学生は春休みだそうだ。オレら社会人にとっては年度末~年度始めで色々忙しい時期なのだが…。
そんな時に平凛が、
「ダンナ様、「お花見」とやらに行ってみとうございます」
と、突然言い出した。平凛が口を開くといつも突然、~~してみとうございます、てことが多いんだが、是真さん、もっと色々連れて行ってやって欲しかったよ、マジで…。オレは、
「よし、行こう。だが次の土曜日でいいか?あさってか。あと、たまには二人で出かけるか。デートだな」
「ハイ!!嬉しゅうございます!」
よほど「二人で」というのが嬉しかったとみえ、その後平凛は、
「私がサンドイッチを作りますので!」
と言った。
当日朝、平凛はももっちに付き添ってもらい、朝の5時から一緒にサンドイッチを作っていたようだ。出発は8時を予定していたから、かなり余裕を取ったものだ。
早く作れた、と言って平凛は7時前にオレのベッドにもぐり込んできた。
「頑張ったな、平凛」
とおれは労い、褒めてやったら、平凛は思い切り抱きついて来た。しかし…さすがにこれから出かけるので、ここまでとし、オレは腕枕をしてやってしばらく寝ていた。
8時ちょうどに出発し、オレは
「今日の目的地は、香美市の工科大の近くにある、「鏡野公園」だよ」
と言うと平凛は、
「ダンナ様と二人きりなら、どこかの山に生えている桜の下でもいいのですよ?ウフフ…」
と返してきた。よほど楽しみにしていたことがわかる一言だな。
鏡野公園に着いて駐車場に停め、バスケットとピクニックシートをオレが持ち、平凛には水筒を頼んだ。
公園に入ると桜並木がまっすぐに工科大まで続いている。ここの桜並木は独特で、桜と桜の木の間に「あすなろの木」を挟んでいる。
そのため桜の花があすなろの緑に映えて、とても奇麗に見えるというわけだった。県内ではこういう珍しい桜並木は他に聞いたことがない。
オレ達は、並木道を少し歩いて右にそれ、広い芝生のある上にピクニックシートを敷いて陣取った。
ここにお弁当とかを置いてから手ぶらで散歩しようということだ。
並木道を工科大まで進んでいく時、平凛はここぞとばかりに腕を組んで思い切りくっついてきたが、オレは「人もあまりいないし、別にいいか…」と思って平凛の好きにさせておいた。
公園内を一通り周ったらお腹が空いて来たので、シートまで戻って二人で食事を摂った。サンドイッチでもやはり、お約束の「ア~ン」はやるらしい…。
春の日差しが心地よく、オレは寝転がるとすぐに平凛が膝枕をしてくれた。約半年ぶりかな…。
オレは平凛の膝枕を楽しんでいると、
「オイ、オッサン」
悪意の塊のような声を掛けられた。
みると少年風の男が2名目の前に立っている。
「援助交際か?いい女を連れてんな。あとはオレらが楽しませてやるよ」
とか言い出した。
オレはすぐに立ち上がり、二人組に正対し、空手のポーズをとり構えた。二人組は二手に分かれ、一人が平凛の方に向かおうとしていたが、そいつが急に、
「オ…オイ、ヤバいぞこいつ…」
と言い出した。見ると平凛は、右手に果物ナイフを持ち、「ユラァ~…」といった感じで立ち上がると、ナイフの先端をゆっくり上に向け、その後自分の首に当てて固定した。
平凛は、
「ダンナ様、私はこの者らに汚されるなら、その前にこの場で自決致します。先立つ不孝をお許しくださいませ…」
と真顔になって言ったものだから、少年らは、
「何やってんだ…危ないぞコイツ…逃げろ!」
と言いながら即座に走って逃げてしまった…。
二人組がいなくなるのを見届けると、平凛は急に力が抜けた感じで手からナイフを落とし倒れそうになったが、オレは抱きとめた。
シートの上でオレは平凛を抱きしめ、
「平凛!大丈夫か!平凛!」
と声をかけると、
「ダンナ様…私はダンナ様だけのものでございます…」
と言って気を失ってしまった…。
(ありがとう。オレも平凛だけだぞ…)と思ってオレは平凛を再度抱きしめた。
渚の街のモノクローム外伝 平凛アナザーストーリー④ 終
あとがきは次のページです。
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