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ともあれ、仕え先が守近の処ならば、先々の事は一安心。
沙奈に至っては、田舎貴族に嫁ぐより、都で良縁に恵まれた方が豊かに暮らせるはずという、両親の思惑もあってか、わずか五歳で送られてきた。
いくら、兄、長良が共にいるとはいえ、まだ、五つ。
家が恋しかろうと、徳子も女房達も、沙奈をいたく可愛がっていた。
さて、妹の屋敷での馴染み具合に、肝を冷やしているのが、兄の長良である。
今年、十二の少年は、妙なところで義理堅く、お世話になっている身でありながらと、沙奈の子供らしい奔放な振舞いに目くじらを立てていた。
が、しっかりしているようでも、菓子をお上がりと、女房に誘われるまま座を共にして、女人の集まりに男の自分が混じっているということに気がついていないようでは、長良も、まだまだ子供ということか。
「あら、長良、忘れたの?沙奈
は、宴で、大活躍だったじゃない!」
「そうそう、あの菊酒のふるまいぶりときたら!」
「ほら、余興の蹴鞠の時だって!」
女房達は、宴の席での出来事を口々に囃し立てた。
重陽の節句とは、菊の節句とも呼ばれる行事のことで、その香りが、邪気を払うと信じられている菊花の力にあやかって、無病息災や長寿を願う催しである。
各々の屋敷で開かれる宴では、菊の花びらを浮かべた菊酒を嗜み、自慢の菊を持ち寄って比べ合う。
招く側は、料理やら設えやらに力を入れ、招待した公達を唸らせるべく趣向を凝らす。
守近の宴席では、沙奈の存在が一役かった。
女房達の真似をして、色気を振りまこうとしたり、奏でられる雅楽にあわせ、おぼつかない仕草で舞おとしたり。挙げ句は、守近に乞われて参加した、余興の蹴鞠。
鞠を蹴り上げるつもりが、足を滑らせ、すてん、と転ぶ……。
その姿は、愛らしくもあり、滑稽でもあり、貴公子達の笑いを誘ったのだった。
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