14 雨②

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14 雨②

 おっさんの部屋は相変わらず片付いてるな。ぼんやりと、そう思った。 「じゃぁ、シャワー借りる」 「待って。そんなんで入れるわけないですよね。座って下さい。左手の手当てしますから」    言われてみると、適当に止血しただけの手は、服の切れ端を真っ赤に染めていた。元から赤い服だったみたいだ。そんな目立つ色着たことないから笑えた。 「綺麗な顔して雑な人ですね」 「しょうがねぇだろ。片手で巻くようだったし」 「病院。一応組織の者が使ってる病院明日行きましょうね」 「そんなの今まで行ったことないからいい」 「ダメですよ。汚い刃物だったらバイ菌が入ってるかもしれませんからね。一応今から消毒もしますけど」  おっさんは器用な手つきで切れ端を取っていって、洗面器とミネラルウォーターを持ってきた。 「まず洗いますね」 「はっ?そんな高そうな水じゃなくて水道行って洗うって!」 勢いよく椅子から立つと目眩がしてよろけた。 「ほら。あなた思ったより出血したんだと思いますよ。怪我人は黙って座って大人しくしてて下さい」  大人しく従う。こんなのまな板の上の鯉?みたいじゃないか。水で洗われても痛いし、その後の消毒はもっと痛かったけど、少しのプライドで一言も声は出さなかった。  傷口を見てるとさっきの自分の身に起きた事が脳裏に浮かぶ。違う事を考えようとしても特に趣味もない。ゲームなんて暇潰し。心が落ち着くような本の一節なんてもっと思い出せない。別にケツ掘られたわけじゃないんだからそこまで悲観する事はないのかもしれないけれど。それに任務は達成出来たんだし。考えたくない。こんなの堂々巡りだ。ケツじゃなかろうが最低最悪に嫌だった。そうだよ、嫌で思い出したくない。こんな時はどうすればいいんだろう。 「はい。とりあえずこんなもんですね」 「あ、りがと。シャワー借りる」 「さっきよろけた人が1人でなんて入れますか。一緒に入って流してあげますよ」 「はっ?!無理。いいよ!這ってでも自分で入って流してくるから。うわっ、触んなって!いいって!」 「世話の焼ける人ですね。暴れないで下さいよ。怪我人は甘えとけばいいんです。私があなたを甘やかしたいだけなんですから。さっき大人しく抱えられててくれたでしょ?あんな風に頼ってくれればいいんですよ。慣れないって言うなら。今は怪我してるから特別だとでも思って下さい。そのうち、私に甘える事は普通の事になってほしいですけどね」 「怪我してるから特別…。言いくるめられてる気もすっけど。分かった」  正直、甘えて下さいの言葉は嬉しかった。
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