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17 束の間の休息
「ただいま戻りましたよ」
「お、かえりなさい」
慣れない。誰かにただいまと言われてお帰りなんて言う生活。手の傷は完治に近づいた。おっさんに連れていかれた組織御用達のやぶ医者のじじぃはヤブではなかったらしい。病院なんて言われなきゃ分からない普通の一軒家で1人で治療を行っている、一応医師免許を持ってるらしいじじぃ。
「なんだ市川。お前のこれか」
ヒヒヒヒとか言う気色悪い笑い声で笑ってんだかひきつけ起こしてんだか微妙な、ヨレヨレの白衣を着たじじぃは、おっさんに連れられた俺を見て下品に小指を立ててみせた。
「おいじじぃ、俺が女に見えるってのかよ」
「ヒヒっ、おぅおぅ老い先短い年寄りの胸ぐら掴むとはなんつうオナゴじゃ」
無事な右手で掴んでやったら、即座に傷口をがっしり掴まれて油断ならないくそじじぃだなと思った。
「こんのくっそじじぃ!怪我人の傷口に塩塗る気かよ!いってーな!って、おっさんもそこで口許隠して笑ってんじゃねーよ」
「いえ。昨日弱ってたのに威勢よく吠えてるから、元気そうで良かったと思いまして」
「オナゴはここを怪我しとるのか。ほぉ、ぐっさりヤられたのう」
「うっせーし、女じゃねぇっつの」
「可愛らしい顔して口の悪いオナゴじゃのう」
「先生。その辺でからかうの止めて治療してあげて下さいよ」
「ヒャッヒャッヒャッ。たまに若いのと話すのは楽しいんじゃよ」
「私も若いですよ?」
「お主なかなか来なくなった癖によう言うな。昔はしょっちゅう怪我しては先生早く治して下さい仕返しに行くからって血気盛んなガキじゃったのに」
「へぇぇ。おっさんそんな時期あったんだ」
「こやつがこの年でこんな地位まで上りつめたのは相当に無茶しおったからじゃよ」
「へぇ~」
「恥ずかしい昔話は止めて下さいって」
「まだ二十代の若者が昔話も何もあるか。イヒヒヒヒ。坊主、痛み止めは5日分だしてやるから消毒は毎日来い。わかったな」
「毎日?めんどくせーな」
「悠生。そこの先生妖怪じみてますがヤブではないので言うこと聞いて下さいね」
「ふん。わかったよ」
一軒家を出て路駐してた車の中で、おっさんはボスに電話をしてくれた。俺が全治2ヶ月の怪我を負ってる。自分が面倒見るからその間休ませてあげて下さい。そんな内容だった。俺も昨日ボスに電話で休ませてくれって話したのに。念押しみたいな。ガキ扱いされてるような大事にしてもらってるような。むず痒い。2ヶ月はのんびり出来る。この先の事をゆっくり考える充電期間が出来た。
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