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22 別れ
「悠生ただいま。どうしたんですか。電気も点けないで。電気を点けて待っていてくれる人がいるって、案外嬉しいもんなんですよ?」
「知ってたのかよ?幹部だもんな、知らないわけないよな」
「聞いたんですね。私がどうこう出来る話じゃないんで」
「俺がいなくなってもいいのかよ……」
ボスからの電話の内容は、本格的に海外に手を伸ばす。中国マフィアとの話がついたという内容だった。
今までみたいにたまに外国での任務ってわけじゃなく、悠生はあちらで殺し屋としてだけじゃなく、これから組織で生きていく一員として学んでくれ。もちろん勉強係兼お目付け役もつける。という内容だった。
英語の勉強させられたのに、中国語かよ!
語学は通訳の会話聞きながら覚えろってさ。
「少し考えさせてくれ」
と、咄嗟に口から出てしまったけれど、
「お前が考えて選べる立場じゃないだろう」と返され、
「分かってる」
と答え通話を切った。
分かりすぎている事だ。
「どうせ!俺がいなくなったって、おっさんは困らないもんな!モテるもんな!本当は選び放題なんだろ!気まぐれに置いてくれてるだけなんだろ!自分より若くて可愛らしい顔立ちしてりゃ、俺みたいなずっと裏組織で生きなきゃならないめんどくさい人間よりもいい相手がいるはずだもんな!もういい!出ていく!出発までホテルかどっか泊まる!これでお別れだ!清々するだろ」
言いたい事を最後まで言いきったら口を塞がれ、抱きしめられた。もうすっかり慣れてしまった、おっさんのタバコの香り。
この人ほんとはこんなに力あったんだってくらい、抱き潰す気かってくらい力が入ってるから、もがいて逃れようとするけど、ビクともしない。貪るように唇と、抉じ開けられた舌をなぶられ、力が抜けていく。
「バカですかあなたは!」
唇が離れても腕の力は抜いてくれず、近距離で怒鳴られた。いつも穏やかな人の怒鳴り声ってこえぇな。
「確かに最初は見た目だけで気になりましたよ。味見だけのつもりでしたよ。でも、段々と私には心を開いてくれて、コロコロ表情を変えるようになって、あぁ、愛されたがりの子だったんだな…って気づいた時には泥沼でしたよ!あ~クソ、こんな夢中になるとは思いませんでしたよ」
いつもの穏やかで大人な落ち着いた雰囲気をもつ、メガネの優しそうな人はどこへやら。慌てたんだか、メガネはずれてるし、なんだか泣きそうな顔で、年上の人でもこんな顔するんだ、可愛いなって不覚にも思ってしまった。
「悠生、私の立場は幹部ですね?」
「うん?」
「その立場を利用すれば、中国だろうとあなたの居る所に行く理由なんて幾らでも作れるんですよ」
「えっ…」
「もう、手放す気なんてありませんから。あなたもあなたで、こっちにボスが呼ぶ時もあるだろうし。飛行機に乗らなきゃ会えないっていう、今一緒に住んでるよりも大変遠い距離になってはしまいますが、遠ければ遠いほど、相手の事考えるし、会えた時燃えるでしょ?永遠に中国に住むわけじゃないんですし。今は遠くても顔を見て話す事だって出来ますしね。とにかく、、私は離す気はありませんからね」
「そんな…一気に慌てて喋るの初めて見た」
「笑いたきゃ笑っていいですよ。大人だって、余裕のない時はあるんです」
「どーすっかな~。イマイチ誠意が伝わってこないな~。あっ、下の名前教えてくれれば伝わるかも」
十分に気持ちは伝わってきてたんだけど、たまにはからかわせてよ。
「あなたは…まだそんな事考えてたんですか…」
「だって、恋人なのに下の名前も知らないんじゃおかしいじゃん?本気じゃないんだろ?俺の事なんて遊びなんだろって考えて…」
「あ~!分かりましたよ!博美ですよ!博士の博に美しいで博美!」
「……何が恥ずかして教えてくれなかったんだか分からない」
「何ってあなた!男なのに美しいって漢字ついてる名前あり得ないでしょ!あんのクソおやじ、この名前がついてまわるせいでクソの事を忘れらない呪いっかつの!見た事ない人間の事を忘れられないってどういう事なんだよ!」
「博美さん、そんな喋り方する時あるんだ」
「人が!せっかく取り繕ってたものが!この名前を思い出すと!」
動揺したんだか少し力が弱まって、自由がきくようになった両腕を博美さんの背中に回す。
「いいじゃん。その方がいいよ。俺の前ではそんなんでいいじゃん」
「ダメです。1人の前で崩してしまうと、なぁなぁになってどこで素が出るか分かりませんからね」
「ふぅん。そんなもんかぁ。なっ、絶対会いに来いよ?来ないと浮気すっからな」
「あなたが?冗談でしょ、そんな小悪魔な事出来ない癖に」
「そこは毎月会いに行きますって言う所だろうが」
「はいはい、毎月は難しいかもしれませんけど、会いに行きますから、私が飢えないうちに行きますからね」
「よし」
「まずは、明日。とりあえずペアリングでも買っときます?」
ペアリングか。相手を縛るような分かりやすいアイテムじゃん。これから離れるんだから、それもいいかもな。
返事の代わりに、そっと背伸びをして自分からキスをした。
また何年かして戻ってきたら一緒に住もうなって約束のつもりで。
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