3 悠生の過去①

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3 悠生の過去①

 気がついた時には同じ年くらいのあまり身綺麗ではないガキに囲まれてた。俺もその1人。世話をしてくれる大人が数人。大人は、泣いたり漏らしたり手がかかる子供を必然的に世話する。俺は手がかからない。  少し年下の子を見ててとさえ頼まれる。みんなキライだった。  俺の事を無表情で何を考えてるか分からないと陰で話ながらも、悠生は下の子の面倒見てエライね、なんて口先だけで言う大人。何が悲しいんだか、泣きながら俺にくっついてくる年下のガキども。俺の髪が綺麗だとか言って触らせてと群がってくる同世代のもの。 俺だって変わらないガキだったんだ。泣きたい時もあった。温かい手が欲しい時もあった。  でも放っておかれた。何のためにここにいるのか、分からなかった。  そんな毎日が何年も過ぎ去り、無表情もそのまま、どこを見てるのか分からないとまで言われても俺だって分からない。  変わらない毎日の中で現れたのが、今のボスだった。ボスは何故か俺を引き取りにきた。俺からしたら、ここから出してくれるなら誰でもいいよ。楽しいとか好きとか、本でだけ読んだ事のある色んな感情を知る事が出来るんなら。  施設の大人が言った。 「悠生、こちら大山さんとおっしゃるのよ。残念な事に奥様との間にお子さまを授かる事ができなかったんですって。それで、悠生を子供として引き取りたいんですって。良かったわね」  厄介払いできるから喜んだんだろ。どうでもいいけど。見たことのない多分高級な車に乗せられた。大人たちと、俺が面倒を見てきたガキども、俺を友達だと思ってたらしい奴らが見送ってる。泣いてる奴もいた。  なんで俺がいなくなることが悲しいのか分からない。振り返って手なんか振ってやらなかった。もう俺の事なんて忘れなよ。  憧れてた賑やかな繁華街を抜けて、住宅地を抜け、自然が沢山な地域に入った。着いた場所は大きな屋敷。落ちついた茶系のレンガ調の、家というより屋敷。  ここが大山さんの家かな。金持ちなのに子供に恵まれなかったのか。金持ちでも可哀想な人っているんだな。俺なんかでいいのかな。  飲食店からは離れた郊外にあって、庭も広くて、こんな庭で走ったり、まだ触った事のない憧れの犬に触れる日が来るのかも。ぶわっと鳥肌がたった。人間よりも触ってみたかった、犬。あぁ、でも期待し過ぎちゃダメだ。何が待ってるかなんてまだ分からない。 あそこよりはマシになる、その程度に考えなくては。  屋敷に入って、君の部屋だよと連れていかれた所で、ここで生活する上での決まり事を言い渡された。 『部屋はもちろん好きに使っていい。風呂もトイレもあるのだから言われた時以外は部屋で過ごす事。不自由はしないように約束するから君もそれを守る事』  金持ちは変わってるのかなと思った。そこまで狭い部屋から出るなと言われたわけではないから、施設よりずっとましな所へ来られた、静かな1人の時間が出来る。  夜は温かい食事を大山さんと食べた。奥さん、俺にとっての母親となる人はどこなのだろう。聞いて良いのか分からないから、黙って紹介されるのを待った方が良いのだろうと思った。そのうち会わせられるんだろう。温かい食事に温かい寝床。これだけでも十分だ。  翌日から、先生と呼ばれる人がきて、人を殺すための技術を教え込まれることとなった。 「悠生はのみ込みがいいな」小さなガキの面倒を見る以外での誉められるという経験が初めての事で、くすぐったくも、これが嬉しいって感情かと思った。  当時は、パパと呼んでいいとボスが言うので、素直にパパと呼んでいた。  パパは、帰ってこない日も多々あったが、忙しい合間をぬって、数日に一度は一緒に夕食を食べてくれる。  「大山さんはあんまり顔に出さない人だけど、悠生を可愛がってくれてるようだね」  殺人をおしえてくれている先生が内緒のここだけの話だけどねって前置きして、そう教えてくれた。あんまり顔に出す人じゃないからね。悠生もだけど。  あぁ、パパは俺と似た者同士なのかな。似確かに忙しくても数日に1回は夕飯を一緒に食べてくれる。似た者親子でわかりあえる時が来るのかもしれない。そう思ったら、そんなに感情を出さないパパだけど、好きだなと思えた。施設で嘘の笑顔の大人よりずっとずっとマシな大人だ。 「先生から聞いたぞ、勉強の方順調らしいな」って夕食時に誉めてくれるときもあった。誉めながら頭を撫でてくれる。これが愛情ってものなのかと理解した。  ならば俺が愛情を返す方法は、毎日教えられる殺人術にどんどん磨きをかける事だと思った。銃の使い方、体術、外国に行くかもしれないからと英語も必須だった。部屋にいる間の空き時間も筋トレに励んだ。  元々細身な身体がムキムキになることはなかったけれど、余分な脂肪はなく、つくところにはしっかり筋肉がついた。  拷問にあった時の為の練習もあった。なんでその練習も必要なのか分からなかった。殺人は、こんな大きな屋敷に住む、どこかの大物なパパを守らなきゃならない時が来るんでしょ?その為なんでしょ?そう先生に聞いたら、この授業はすぐになくなった。
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