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8 初めてのキス②
目が覚めたら、おっさんはいなかった。自然に唇を触ってしまう。
あれがキス。
触れるだけのキスを沢山されて、自分の顔が次第に熱くなっていったのを覚えてる。思い出すと痒いような、背中がムズムズするような、なんだか不思議な感覚だ。
知識でだけなら知ってたのに。ターゲットのもっとエッチな事をしている現場だって盗聴してきたし。あんなのは子供のキスだよな。大人のキスはもっと…どうなっちゃうんだろう俺…。
思った通り、おっさんはそっち側の人間で、俺が殺しをやってなくても興味があると言ってくれた。欲しかった言葉だと思った。
殺しとは無縁の世界。行ってみたい。
でもな、おっさんも組織の人間だもんな。
一緒にいる限り日の当たる世界には行けないんだろうな。
……って、気が早い。早すぎる。なんてこと考えてんだ俺は。恋人とか言ってたけど、昨日だけの事かもしれないし。大人が子供をからかっただけかもしれないし。考えてて悲しくなってきた。大体連絡先さえ交換してない。遊ばれたんだろうか。
女々しい……。
気分転換に日課にしている筋トレでも…って、ターゲット!
枕元に何となく丸められていたイヤホンをつけ時計を見る。7時半。
前回チェックアウトしていた8時に間に合った。
ガタガタと生活音のような物音がしているので、前回と同じくらいの時間に出るのかもしれない。後をつけられるように外へ出られる準備をする。
と、着信音がした。俺のスマホの番号はボスといつも指示を出して使ってる奴しか知らない。ボスにしては起きるのが早すぎる。名前の出ない知らない番号。もしかしてと思った。
「はい」
「悠生?おはよう」
「おっさんいつの間に俺の番号…」
「もちろん昨日君が寝た後だよ。すまないね、朝起きるまで隣にいたかったんだけど、別件で呼び出しがかかってね」
「別に。置いてかれたとか遊びだったのかとか思ってねぇし」
「思ってたんですね?」
「はっ?思ってねぇって」
「意外と、可愛い事考えてくれてたんですね」
電話の向こうから笑い声が聞こえる。
「笑うな!バカヤロウ!」
「ははっ、はっ、スミマセン、こんな、電話越しに自分が笑うなんて思ってませんでした。君は凄いですね」
バカにされてんだか誉められてるんだか分からない。おっさんは楽しそうだけど。
「朝いなかったお詫びと言ってはなんですが、明日の夜空いてませんか?」
「空いて、なくもないけど」
「ありがとうございます。うちに招待しますよ。招待なんてほど豪華な家じゃなくマンションの一室ですけど。夕飯くらいご馳走しますし、今度は朝まで隣にいさせて下さい」
「う、旨かったら食ってやらなくもない」
「じゃぁ、後で場所は送っときますから。必要な時はタクシー使って下さい。そのくらいは出しますから」
「分かった」
「では、明日」
あっさり通話は終わった。明日。昨日より凄い事されちゃうんだろうか。いやいや、夕飯食べさせてくれるだけ。それだけだろ。
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