2/3
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「大丈夫か? 円谷」  頭上から降ってきた声に、心臓が騒いだ。額を押さえて蹲る僕を気遣わしげに覗き込んできたのは、やっぱり香椎(かしい)くんだった。 「か、香椎く」 「おでこ、腫れてないか? 見せてみろよ」  香椎君の手が、僕の額に伸ばされた。前髪を掻き分けようとするその動きに、僕は慌てて顔を逸らしてしまう。 「だ、大丈夫! だから!」  そのまま、逃げるように駆け出した。香椎くんが僕を呼ぶ声を背に感じるも、立ち止まらず一直線に去る。  ――ああ、また逃げちゃった。  去年から同じクラスなのに、ろくに彼と話せていない。香椎くんの方からああして話し掛けてくれているのに、いつも緊張して逃げてしまう。……本当にダメだなぁ、僕。  香椎 (とおる)くん。サラサラの明るい茶髪。爽やかな好青年然とした端正な顔立ち。頭が良くて運動も出来て、おまけに優しくて。男女共に人気のあるクラスメイトだ。  そう、香椎くんは優しい。こんな僕のことも、いつも気に掛けてくれている。僕はそんな彼に、分不相応な恋をしている。――だけど。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!