塗仏

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 深夜の山奥に佇む朽ちかけた廃寺は、それなりに不気味な雰囲気を漂わせる場所でした。  真っ暗な闇に満ちた山林の中、草()した長い石段を登った先の山腹に、屋根瓦も半分以上が崩れ落ち、今にも倒壊しそうなお寺が一棟建っています。 「よ、よし、行こうぜ……」  言い知れぬ恐怖に足を(すく)ませながら、M君達は傾いた石段を恐る恐る登り、床板も腐って苔むした廃寺の中へと足を踏み入れました。  大きなお寺ではありませんが、お堂というほど小さくもなく、いくつかの建物が廊下で連結しているような感じです。  以前に訪れた者達の仕業か? 本堂の木の扉は傾いた状態で外れたままになっており、内部にはなんなく侵入することができます。 「ここにはないなあ……どっか他の部屋なのか?」  まずはみんなで本堂へ入り、あちこち懐中電灯で照らしながら調べてみましたが、堂内のどこにも仏像はおろか、厨子のようなものも一つとして残ってはいません。  お寺なのに仏像が見当たらない……これが都市伝説で云われている「見つけられる人と見つけられない人がいる…」というやつなのでしょうか?  廃寺になった理由について、ウワサでは寺に強盗が押し入って住職一家が皆殺しになったからだとか、例の仏像のせいで全員呪いを受けて死に絶えたのだとかいわれていますが……これはどうにも後付けっぽい、いかにもな話です。  周囲に民家も見当たらないですし、おおかた過疎化で檀家がなくなり放棄されたか、あるいは村ごとどこかへ移転したかして、まあ、その時に祀られていた仏像も運び出されただけのことなんでしょう。  とはいえ、皆、そんなことは百も承知の上で、本当にあるかどうかもわからない例の奇妙な仏像を探す、そんな〝遊び〟を楽しむためにここへやって来ているんです。 「よし。ここは肝試しもかねて、一人々〃手分けして探そう」  部屋が幾つかあったこともあり、誰が言うとでもなくそんな流れになりました。  一緒に行った仲間の内に誰も霊感のある者がいなかったせいか? 暗く薄気味悪い雰囲気ではありますが、特に何か感じるだとか、変な音が聞こえるだとか、そういうことも一切ありません。
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