塗仏

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「じゃ、仏像見つけたやつにみんなで飯奢るってことにしようぜ!」 「いいねえ。よーし、勝負だ!」  いざ入ってしまえば恐怖心も薄まり、学生特有の軽いノリで盛り上がりながら、意気揚々と散らばっていく友人達に負けじと、M君も自分の思う所を探し始めます。  M君が向かったのは、本堂をぐるりと取り囲む回廊を廻ったその裏手でした。  一旦、表の扉から外へ出た後、湿気を含んで気色悪く(たわ)み、うっかり踏み抜いてしまいそうな回廊の床を慎重に進んで行くと、本堂正面の真裏の壁に、また別の出入口らしき扉があることをM君は見つけました。  こちらは外されている表側と違い、まだしっかり閉まっている観音開きの丈夫な木戸です。 「鍵かかってないといいけど……あ! 開いた」  施錠されていることを心配しながら、とりあえず手をかけてみるM君でしたが、意外なほどすんなりとその扉は開きました。  鍵もかかっていなかったですし、廃墟とは思えないくらい建て付けも悪くなく、肩透かしを食らうほどにすっと簡単に開きます。  場所的には本堂の裏口だと思われたのですが、真っ暗なその中を懐中電灯で照らしてみると、どうやら独立した小部屋のような空間になっています。 「……あ! これってひょっとして……」  しかも、闇に向けた懐中電灯の光の中に、白い土壁を背に置かれた長方形の箱のようなものが映りました。  子供の背丈ぐらいの大きさがあり、全体が黒塗りの金属でできていて、いわゆる〝厨子〟と呼ばれるようなものに見えます。 「これがその厨子なら、ほんとに例の仏像もあるのか……?」  半信半疑ながら、恐怖心よりも好奇心の方が優ったM君は、さっそくその小部屋へ入ると厨子の扉を開き、中にあるものを確かめてみることにしました。  キィキィ…と軋む扉をゆっくりと開き、真っ暗な厨子の中を懐中電灯の明かりで照らしてみます……。
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