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「……っ!」
と、その瞬間、思わずM君は息を飲みました。
本当にその中には、じつに奇妙な仏像が一体、納められていたのです。
いや、仏像と呼んでいいものかどうかもわかりません……それは膝立ちをした腰巻だけを着ける半裸の僧侶のような格好をしており、厨子同様、全身真っ黒な色をしていて、ただ、唯一白く闇に映える両の大きな目玉が、見事なほど眼窩から飛び出してしまっているんです。
また、乾漆像か何かなのか? 劣化して表面の剥がれかけた坊主頭の後頭部からは、人間の髪の毛のようなものもちらほら乱雑に生えています。
こんな仏像、今までに見たことも聞いたこともありません……ただの僧侶の像というわけでもなさそうですし、それが何を表しているものなのかさえわからないんです。
「……そうだ。みんなにも知らせなきゃ……おおーい! あったぞーっ!」
その得体の知れない奇妙な像を目にすると、なんとも言い表しがたい嫌な気分になるM君でしたが、しばらく呆然とした後に我に返ると、友人達を呼ぶために本堂の表の方へと戻って行きました。
「……どこだよ? そんな扉、どこにもないじゃん」
ところがです。みんなを呼び集めて再び本堂裏へやって来てみると、先程見たはずの扉がどこにも見当たらないんです。
「おかしいな? 確かにここにあったんだけど……」
「場所が違うんじゃねえのか? 周りを探してみようぜ」
なんだか狐に抓まれたような気分になりながら、友人に言われて他の場所も探してはみるんですが、どういうわけか? あの確かにあったはずの扉はどこにも見当たりません。
「なんだ? ビビって幻でも見たのか?」
「あ、そうか! 俺達を担ごうとしたな? すかっり騙されちまったぜ」
唖然とするM君本人を他所に、友人達はそう言って、彼の見たものをまったく信じようとはしてくれません。
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