10人が本棚に入れています
本棚に追加
「ま、充分楽しんだし、そろそろ帰ろうぜ?」
そして、なんだか興醒めしてしまった友人に促され、皆とともに廃寺を後にするM君でしたが、内心、彼だけは都市伝説で云われている「仏像を見てしまった者のところには、その仏像と同じ姿をした魔物が現る…」という話を密かに思い出していました……。
それから数日経ったある日のこと。M君の抱いたその不安は現実のものとなります……。
その日の昼下がり、駅前の繁華街に一人で買い物へ出かけていたM君は、雑踏の中に奇妙なものを見かけました。
「……おめでとうございます……おめでとうございます……」
道の真ん中に立つみすぼらしい恰好をした一人の人物が、なにやら脇を通り過ぎる人々にそんな言葉をかけているんです。
正月でもないのに何がおめでたいのか? 当然、気になってM君が目を凝らしてみると、そいつは全身真っ黒い肌のぶよぶよの身体に、腰布だけを巻く坊主頭の男でした。
それに、後頭部だけは長い髪が所々生えており、その見開かれたどんぐり眼は顔から飛び出しているようにも見えます……それは、まさにあの廃寺で見た仏像を彷彿とさせる姿なんです。
「……おめでとうございます……おめでとうござ……」
その不気味な目の飛び出した黒い坊主が、通りを行き交う人々にそう声をかけ続けています……ですが、その声に誰も立ち止まることはなく、完全に無視しているというか…いや、まったく見えていない感じです。
「……おめでとうございます……おめでとうございます……」
気づけば、思わずじっと見つめてしまっていたM君の目と、その黒坊主の飛び出した目が不意に合いました。
「……おめでとうございます……おめでとうございます……」
すると、黒坊主はなおもそう呟きながら、今度はM君目がけてずんずんと歩み寄ってきます。
「……ひっ! う、うわあぁぁぁっ!」
迫り来る怪人に底知れぬ恐怖を感じ、堪らずM君は悲鳴をあげると、その場から慌てて逃げ出しました。
最初のコメントを投稿しよう!