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まさに、都市伝説で云われている通りのことが起きたんです。
この時は逃げおおせることのできたM君でしたが、都市伝説の続きによれば、見たもののことを忘れて一切関わらないようにしなければ、魔物に取り憑かれて命を奪われてしまうとされています……。
でも、M君はこの〝黒坊主〟を見たことで、あの廃寺にあった奇妙な仏像に対してむしろ興味を掻き立てられてしまいました。
というのも、〝黒坊主〟が行っていたことは、高名な禅僧である一休宗純――即ち、あのとんちで有名な一休さんの逸話となんとなく似ていたからです……。
一休さんは正月、手に持つ杖の頭に髑髏を付けて町に現れ、皆に「ご用心! ご用心!」と告げて歩き回ったのだそうです。
「正月早々縁起でもない。どうしてこんなことを?」と人々が尋ねると、「門松は 冥土の旅の 一里塚 めでたくもあり めでたくもなし」と、一首歌を詠む一休さん。
つまり、皆、年が明けると「おめでとう、おめでとう」とあたりまえのように口にするが、一年経ったということはそれだけ死が近づいたということでもあり、うかうかしていると、たちまち杖の先の髑髏のようになってしまうから用心しろと説いて回っていたというわけです。
このエピソードを偶然知っていたM君は、僧侶のようにも見える仏像だし、言ってることは正反対だけど、なんだか関係があるような気がして、どうにもその正体を突き止めたくなってしまったのです。
そこで、ネットで関連するようなワードを入れてあれこれ検索してみると、〝塗仏〟という妖怪がヒットしました。
この〝塗仏〟、江戸時代の妖怪絵巻や子供向けの化け物双六なんかに描かれている妖怪なんですが、その絵は真っ黒いメタボ体型の身体に腰布だけを巻き、後頭部のみに髪の毛の生えた坊主頭なんです。しかも、その目玉は完全に顔から飛び出して垂れ下がっている……まさにあの仏像や街で見た怪人と同じ姿なんです。
さらに、尾田郷澄という絵師の手による『百鬼夜行絵巻』では、同形の妖怪の名を〝黒坊〟と呼んでいたり……。
また、その筋ではわりと有名な、鳥山石燕という人の書いた『画図百鬼夜行』なる妖怪百科事典みたいなものの〝塗仏〟は、仏壇の中から姿を現しているような描かれ方をしています。
M君の目に、その仏壇から現れる〝塗仏〟の絵面は、あの厨子の中にあった仏像とどうにもかぶって見えてしまいます。
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