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ただ、この妖怪、どの絵を見ても〝ぬりぼとけ〟とその名前が記してあるだけで、それがいったいどういった妖怪なのか? 何の説明もまったくされてはいません。
なので、その図像から考えるしかないのですが、やはり特徴的なのはなぜか目玉が飛び出しているということです。
「あ! もしかして、目が飛び出している……目が出ている……お目出たいっていうダジャレか?」
ふざけているように聞こえるかもしれませんが、一休さんはとんちの利いた禅僧でしたし、もしかしたら、そんな言葉遊びなのではないかという考えがM君の頭に浮かびました。
でも、「ご用心!」と注意して廻った一休さんとは正反対に、「おめでとうございます」とみんなに告げているというのは……その〝おめでとう〟というのが一休さんとはまさに真逆の、死の近づいていることに対してのものだったとしたら……。
なんだか背筋に冷たいものを感じるM君でしたが、あくまでなんの根拠もない自分の中だけの推論。ただの思い過ごしかもしれません。
手がかりがそれ以上掴めないM君は、今度は仏像の観点から改めて調べてみることにしました。
すると、こちらでも興味深い種類の仏像をM君は見つけました。
それは〝肉身仏〟や〝肉身菩薩〟と呼ばれる中国や東アジアのいわゆる〝即身仏〟のようなもので、徳の高い僧侶が死後、肉体が腐らず自然ミイラ化した存在なのですが、中には金箔などを重塗りして成形し、生前の姿に似せて祀られているものもあるんです。
内部にはっきりと人骨が映る、この〝肉身仏〟のレントゲン写真を見た瞬間、M君はあの廃寺にあった異形の像が同様のものなのではないかと思いました……あの後頭部に生えた髪の毛は、劣化した表面が崩れて剥がれ、外にはみ出てしまったものなのではないかと……。
通常、即身仏も肉身仏も徳の高いお坊さんが自主的になるものなので、たいへん御利益のある仏像とされているんですが、中には自らの意志ではなく、無理矢理、強制的に即身仏にされた僧侶もいるという話がまことしやかに囁かれています。
もし、あの廃寺の仏像もそうしたものだったのだとしたら……その怨みによって、仏の教えとは真逆に人の死を願う魔物になってしまっているのだとしたら……。
「やめよう……もう関わるのはやめにしよう……」
その正体ではないかと思われるものにたどりつくと、M君はなんともいい知れぬ恐怖に震えが止まらなくなり、もうこれ以上、あの仏像と〝黒坊主〟について調べることはやめにしました。
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