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しかし、最早すでに手遅れでした……。
それ以降、M君の前には毎日のようにあの〝黒坊主〟が現れるようになったんです。
「……おめでとうございます……おめでとうございます……」
街中であろうと屋内であろうと所かまわず、突如、魔物は姿を現すと、見えない他の人達には目もくれず、あの、お決まりの台詞を繰り返しながら真っ直ぐM君の方へ向かって来ます。
まるで、M君に死の近づいたことを祝うかのように……。
「う、うわぁぁっ! た、助けてくれぇっ!」
魔物に追われる度に周囲の眼も顧みず、M君は大声で悲鳴をあげながら必死に走って逃げました。
その甲斐あってか、毎度、なんとか逃げ切ることのできていたM君でしたが、徐々に徐々に、〝黒坊主〟は彼の近くへと迫って来ています……。
前の日には駅前の大通りに現れていたのが、次の日には彼の通う大学に……また次の日には彼がよく使う道の脇の公園に……そして、ついにはM君の住んでいるマンションの前にまでやって来たのです。
「……おめでとうございます……おめでとうございます……」
「く、来るな! 頼むからもう勘弁してくれえっ!」
いつもの言葉を呟きながら迫って来る〝黒坊主〟に、M君もいつも同様、必死に走ってマンションの中へと逃げ込みます。
「……ハァ……ハァ……フゥ……」
そのまま階段を駆け上がり、四階にある自分の部屋へ飛び込んでドアに鍵をかけると、ようやくM君は安堵の溜息を吐きました。
四階の高さがありますし、これまでのことから考えても、さすがに部屋の中にまでは追ってこないでしょう……。
安心すると、なんだかどっと疲れが出て、M君は早く休もうと寛げる部屋着に着替えるためにクローゼットの方へ向かいました。
そして、なんの警戒もなくその扉を開いたのですが……。
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