薄紅の花弁は想い出に変わる

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 ネクタイを緩め長く息を吐き出す。  もうこのまま帰ってしまおうか。そんな事は出来ないのに気持ちが酷く落ち込んでいる。こうなる事は分かっていたのに、何故来てしまったのだろう。  二人を祝福したかったから。  そんな理由だったら良かったのに。  これで終わりにしたかった。自分なりのけじめだ。そんな利己的な理由で来たのだから自業自得だ。 「ゆき!」  息を切らし近付いて来たのは新婦の弟の光留だ。濃紺のスリーピースにいつもは無造作に伸ばしている長めの髪は、きれいに撫で付けられいる。  式の前は話す機会がなかったので、ちゃんと向き合ったのは今日これが初めてだ。 「……帰る、のか?」 「は?帰る訳ないだろ……ちょっと……トイレに行きたいんだよ」 「トイレ、あっちだよ、こっちだと……庭に出るぞ」 「あぁ……」  どこかへ行こうと思っていた訳ではない。チャペルの前でのフラワーシャワー、その後はチャペル横にあるレストランで披露宴が行われる。そのレストランと逆側に歩いていたので帰るのかと心配で追ってきたのだろう。 「……ちょっと歩く?」 「……うん……」  漸く息が整ったらしい光留は先に歩きだした。レストランと反対側のチャペルの横には小さめの庭があり、庭の奥にはフォトスポットになるようなベンチが置かれていた。  披露宴を行うレストランとは逆方向だからか、人影はなかった。  庭の中央付近で二人は立ち止まった。光留は何か言いたげな視線で雪成を見ているが、言葉にならないのか沈黙が続く。  無口という程ではないけれど、よく喋る姉と比べれば無口といってもいいのかも知れない。  いつもだったらこんな沈黙気にならない。二人でいる時の和らいだ空気感をいつもは好ましく感じるというのに、今日はやけに重く感じる。  光留は何も語ろうとしない癖に視線だけは雪成を捉えるから、それから逃げるように目線を反らす。  さっきから気付いてはいたが光留の手には小振りのブーケが握られていた。花嫁が持つような立派なものではなく、花屋で売っているような花束だ。  もしやブーケトスのブーケではないだろうか? 「光留、それブーケトスのか?」 「ん?違うよ、てかブーケトスやるんだっけ?」 「……どうだったかな?」  スケジュールに書いてあったかも知れないが覚えてはいない。覚えているのは自分のスピーチの出番だけだ。  とにかくブーケトス用のブーケでなくてよかった。だけどなんで?疑問は直ぐに光留が答えてくれた。 「ゆきにあげたかったんだ」 「……これを?」 「うん」  ブーケを大事そうに両手で持ち、光留が一歩近付く。 「ゆき」 「……」  どこか緊張したような顔で光留はブーケを差し出した。 「ずっとゆきが好きだった、受け取ってくれる……?」  さっき見た宏太や光里が浮かべていた笑顔ではなく、寂しそうな悲しそうな笑みで光留は雪成に告白した。
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