薄紅の花弁は想い出に変わる

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 プロポーズされたと嬉しそうに報告をしてきた姉の笑顔を見て、真っ先に頭に浮かんだのは雪成の顔だった。  おめでとうは多分ちゃんと言ったと思う、もうよく覚えてはいないけど。  ただ直ぐに雪成に電話をして、何でもいいから口実を付けて会おうと思った。でも二人だけで会う事は叶わず、随分時間が経ってから宏太と光里を入れての四人でになった。  あの頃の雪成は光留だけに会えないと断っていたのではなく、親しい友人一同に仕事が忙しくて会えないと言っていたようだ。  雪成は一人で抱え込む事が多い。学生時代から何か困った事が起きても人に頼る事なく自分だけで何とかしてしまい、後からその事を知る。そんな事が多かった。  人付き合いが苦手な訳ではないだろうけれど、誰かに甘えるのが下手なのだろうと思った。そのくせ人が困っていると直ぐに手を貸すし、頼られると断れない性格は好ましくはあるが、最初の内は見ていてイライラしたものだ。  宏太と光里、そして雪成は同じゼミだった。確か夕飯行くけど光留も来ないかと姉から誘われ行ったのが雪成との出会いだ。  別に初めから好意を持っていた訳ではない。  一緒にいる内に段々、その人柄もだけど二人でいる時の空気感が好きでもっと長い時間を共に過ごしたいと思い、それはいつの間にか恋に変わった。  お互い何も話さずにいても気を遣い合ったりせず、たまに思い付いたみたいにぽつぽつと語り合う。雪成が話して光留が相槌を打つ事が多かったが、その時間がどんどん愛しい時間へと変わった。  だからだろう、雪成の宏太への想いに気付いたのは。  きっと今でも二人は知らない、勿論知らない方がいい。でももう二人の事で雪成には傷付いて欲しくない。  既に傷付いているのに、きっと心は壊れかけている。  学生の頃とは違うんだ。宏太を想って涙を流していた不安定な雪成はもういない。心を殺して、それでも宏太の側にいた雪成。  離れてしまえばいいのに、何度も思ったけれど、どんな形であれ側にいたいのだろうと見守る事しか出来ず、歯痒かった。  拒否されるのが怖くて勇気を出せず、何も出来ないまま今日まで過ごしてしまった、だから後悔はしたくない。  花束は光里がブーケを頼んだ花屋でやっていたアレンジメントの教室で習って作ったもの。光里には散々誰にあげるのか聞かれたけど答えなかった。  自分で作ったものをあげたくて、らしくないけど頑張った。  好きな人に花束を渡し、OKだったら一輪を胸に挿してくれる……そんなのを聞いたから。 「ゆき」 「……光留、お前これ意味分かってんの……?」 「うん」 「……もしかして光留が作った?」 「そうだよ」 「……そっか……」  神妙な顔で花束と光留の顔を見比べていた雪成だったが、肩の力が抜けたみたいな顔で笑った。 「お前なぁ……」 「……ゆき」  でも笑顔は長続きしなかった。唇を引き結び堪えるみたいな顔をしていたが、最終的には両手で顔を覆って俯いてしまった。 「今日でゆきが終わらせたなら、オレがゆきの心を貰いにいっても……もういいよね?」  宏太を想い続けている内は何も通じないと思った。  だからいつか宏太を諦めてくれた日に言いたと思っていた。  それはきっと今日のような日だと分かっていたのに。雪成には最悪のタイミングだろうと申し訳なく思っていたけど。
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