突然の告白

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突然の告白

「その……」  そして、さっきの怒鳴り声とはほど遠い小さな声で、わたしに何かを言いかけた。 「ユイ。カール・ウッドストック准将、いや、公爵子息は、現在、きみの婚約者なのかい?」  って、急に尋ねてきた。  どうしてそんなことを尋ねるのかしら?  その疑問は別にしても、第二皇子に嘘をついたりごまかしたりということはしたくない。 「いいえ。あの夜、殿下が去られた後に婚約を破棄されました」  そう言いながら、自分が微笑んでいることに気がついた。  元婚約者のカールとは、口づけさえしたことがなかった。  彼とは、父の片腕ということで婚約をした。  でも、その付き合いは希薄で短かった。  つねに彼のことを想っていたり、会うのが待ち遠しかったということもなかった。  だから、わたし自身も悪かったのである。だからこそ、カールは継母サリーナに魅せられたにちがいない。  彼に婚約を破棄されたことは悲しくない。それどころか、せいせいしている。    だから、微笑んでしまった。 「よかった」  そのとき、第二皇子のつぶやきがきこえてきた。 「はい?」 「あ、いや。こちらのことだ。だったら、その……。ユイッ」 「はい、なんでしょうか」 「あああ、その……」 「ブルルルル」 「だから、わかっているって」  また黒馬が鼻を鳴らした。  その一人と一頭のやりとりがおかしくって、思わず笑い声を上げてしまった。  何日かぶりに、心から可笑しくなった。 「も、申し訳ございません」  笑ってしまうなどという失礼な振る舞いに、慌てて謝罪をした。 「いいのだ。きみは、笑顔の方がずっとずっと美しい。ユイ」  突然、彼は片膝を地につけた。 「わたしと婚約してほしい。いや、結婚してほしい」 「はい?」  突然のことに、間抜けな反応しかできなかった。  婚約?結婚?  どなたかと間違えていらっしゃいませんか?  そもそも、女性が大っ嫌いなのではないですか? 「わたしは、きみに平手打ちを食らったあの日から、きみのことがずっと好きだった。だから、きみが認めてくれるような強い男になるために、心身ともに鍛えて軍人になった。戦場で武功を幾つかあげ、これならばと決意した途端、きみが准将と婚約をしたことを知った」  彼は、真摯な表情で続ける。 「立場上、奪うわけにもいかず……。ずっと悶々とすごしていた。隣国と戦争をしている間も、きみのことが頭から離れず……。こうなったら、なりふり構わず権力を振りかざしてでも奪ってしまおうかとまでかんがえた。そうこうするうちに終戦を迎えた。マルグリット将軍に相談をしようとしたしたが、彼自身が隣国の王族の遠縁の者と再婚してしまい、それどころではなくなってしまった。その後、なかなかタイミングをつかむことが出来なかった。そんなとき、不穏な情報をつかんだ。マルグリット将軍を暗殺し、その後釜にウッドストック准将を据え、彼を操って軍部に揺さぶりをかけようと画策している者たちがいる、というものだ」  彼の美しい顔が、すまなさそうに歪んだ。 「わたしがもっと早く、内偵や調査をすればよかった。そうすれば、将軍は死なずにすんだ。きみに悲しい思いをさせずにすんだ。ユイ、許してくれとは言わない。しかし、せめて償いをさせてくれないだろうか?」  彼は、父の死の真相をおしえてくれた。  父は、継母サリーナと元婚約者のカールに毒殺されたのだという。  死亡や死因を特定した医師は、お金で雇われていた。  しかし、その医師は現在行方不明になっていて、証言をとることが出来ないらしい。他にも物的証拠がなく、断罪するにはまだ時間がかかるという。 「わたしは、かならずや将軍の無念を晴らす。それから、ユイ。きみをかならずしあわせにする。わたしはきみを守るし、悲しい思いは絶対にさせない。それから、きみにヘビを投げつける、なんてこともぜったいにしない」  わたしは、すでに涙を流していた。  彼が父のことを調べてくれていることにたいしての感謝の念、殺された父の無念、それから、彼のわたしにたいする気持ち……。  それらすべてにたいして。  彼の冗談に泣き笑いしながら、何度もうなずくことしかできなかった。  もちろんそのうなずきは、了承のうなずきであることは言うまでもない。  この日から、彼とのお付き合いがはじまった。
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