そして、ざまぁを

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そして、ざまぁを

 その翌日、わたしはトマス様のはからいで宮殿に招かれた。そこで、パーティーに出席をする準備をさせてもらった。  パーティーに出席するためのドレスや装飾品、靴などすべて揃えて下さり、皇族付きのメイドたちがわたしの身の回りを整えてくれた。  きらびやかなドレスに包まれたわたしは、滑稽でしかない。  素敵なドレスや装飾品や靴がかわいそうになってしまう。  同時に、せっかく準備してくださったトマス様や、身の回りのお世話をしてくれたメイドたちに申し訳ない気がする。  打ちひしがれつつも、わたしたちは皇族の獅子の紋が彫り込まれた豪勢な馬車に乗り、トマス様専属の親衛隊を引き連れ、わたしの屋敷に向かった。  屋敷が見えてくるころには、緊張と不安とで押しつぶされそうになってしまった。 「ユイ、大丈夫。わたしがついている。わたしに任せて、きみは堂々としていればいい。きみは、栄誉あるアレシオス・マルグリット将軍の一人娘なのだから。きっと、将軍も見守ってくれているよ」  トマス様が、隣から手を握ってくれた。  不思議と落ち着いてきた。  わたしたちは、わざと遅れていった。  だから、到着したときには宴もたけなわだった。  屋敷の使用人たちは、皇族の馬車でやってきたわたしを見て驚いている。  その使用人たちがうろたえているのを横目に、トマス様にエスコートしてもらいながら大広間に向かった。  男女関係なく、だれもが美しいトマス様を呆けたようにみている。  大勢の爵位ある紳士淑女だけでなく、軍服姿の軍の関係者の間をぬいながら、大広間に到達した。  トマス様の親衛隊の隊長が、入り口で「第二皇子殿下のお越しである」と大声で呼ばわると、大広間内が静まり返った。  そこに、トマス様と入ってゆく。  すべての人が、トマス様に注目している。  その堂々とした姿は、わたしと二人っきりのときとはまったくちがっている。だから、つい可笑しくなってしまう。  そのお蔭で、緊張がほぐれた気がする。 「第二皇子殿下」  主催者であるサリーナと元婚約者のカールが駆けつけてきた。  二人はちゃんと挨拶をしてから、はじめてわたしがトマス様に隠れるようにして立っていることに気がついたようである。 「ユイ?これは、いったい」 「ユイ?」  二人とも、口をあんぐり開けてわたしを見ている。 「無礼者っ、控えよ。ユイ様は、皇子殿下の婚約者でいらっしゃる」  親衛隊の隊長の一喝が飛んだ。  ゲストたちの間で、ざわめきが起こりはじめた。 「そ、そんな……」 「ユイが?」  サリーナも元婚約者のカールも、哀れなほど呆けている。 「ウッドストック准将。きみは、すでにユイ・マルグリット嬢と婚約を破棄している。ちがうか?ならば、わたしが彼女に婚約と結婚を申し込んだとしても、まったく問題はなかろう?」  トマス様の恫喝めいた問いに、元婚約者のカールは震え上がっている。 「連れてこい」 「はっ!」  トマス様の命令で、親衛隊の一人が鎖に繋がれている男性を連れてきた。 「二人とも、あの者の顔は知っているな?医師のナッド・オークスだ。ナッドがすべて自供した。サリーナ・マルグリット、いや、サリーナ・アンゲリナおよびカール・ウッドストック准将、アレシオス・マルグリット将軍殺害の容疑で連行する」  二人は、あっという間に親衛隊の人たちに取り囲まれた。 「サリーナ。敗戦国の王族であるおまえたちが何の咎めもなく生きながらえていられるのは、アレシオス・マルグリット将軍がわが皇帝に願いでたからだぞ。それを、毒殺するなどとは……。サリーナ。当初は、おまえたちサマド王国の王族の復権を賭け、将軍を取り込もうとしたのだろう?だが、途中から自分自身の欲に溺れてしまったようだな。准将、貴様は将軍の片腕だったから、サリーナに利用されただけだ。二人とも、愚かきわまりない。二人を連行しろ」 「ははっ!」  二人とも、左右を親衛隊の人たちにがっちり囲まれた。それから、連れてゆかれようとした。 「ユイッ!なんであんたみたいな小娘が、皇子をモノにできるのよ。わたしの方が、ふさわしいにきまっているのに。こんなドジで役立たずの男なんかより、そっちの皇子のほうがずっといいわ」 「な、なにを言っているんだ?そもそも、きみがわたしをそそのかしたんじゃないか」 「だから、あの医者を殺せって言ったでしょう?わたしの言うことをきかないからよ。この役立たず。あっちの方だって、ほとんど役に立たないですものね」 「このあばずれっ!」  きくに堪えない二人の罵り合いが、しだいに遠くなっていく。  結局、その程度の女と男だったというわけね。  それを見抜けなかったからと言って、お父様は悪くないし愚かでもない。
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