最期に思うこと

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40代くらいだろうか、彼女とはほとんど会話もせずに商店街を抜けて、住宅街に入っていく。どこに行くのかも知らず、連れられるままについて いく。 「私はあなたの娘なの」 「え?」 彼女は前を見たまま速度をそのままに歩いていく。悪い冗談だ、そう思ったとき、 「私の名前は桜。生年月日は1985年の4月11日」 (まさか・・・) 不妊治療をしている時、一度だけ受精したのだが、すぐに流産してしまったことがある。それが、忘れもしない1985年4月11日。妻にも話していなかったが、その子の名前を桜にしたいと思っていた。 「パパ、今、幸せ?」 違う。 「君は、誰?」 「ここ」 私の質問に答えず、入ってといって、ボロいアパートの中に入っていく。築50年は越えているだろう。その中の一室、ドアを開けて中に入ると驚いた。物がない部屋の中心に縄がつり下がっている。輪っかが作られた首吊り用の縄。 「私が動かなくなったことを確認して、しばらくしたら警察に連絡してほしいの」 背筋が凍るような感覚。自殺をしようとしていることもそうだが、まさに自分が人生を終わらそうとしていた日に、同じことを考える人間と偶然出会えるなんて。それが産まれてもいない娘だなんて。 「自殺なんて、何か理由が?」 絞り出すように自殺をするにいたる原因をたずねる。 「子供ができなくて、旦那さんに逃げられちゃったんだ」 そういって痛々しく笑った。
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