「わたし」

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バシッツ!! と襖を乱暴に叩く音。そして間髪入れずに聞こえたのは、 「ハアハア言ってんじゃねぇよ、てめぇ! 気持ち悪りぃんだよっ! 死ね!バカ!」 という、怒りに満ちた罵倒。 何十年かぶりに姉の罵倒を聞いた私は、驚きとある種の感動を味わってしまった。 そうだった。 姉は、こういう人だった。 「ダメじゃんか……」 小さな声が聞こえて見下ろすと、布団の中でうずくまる子どもがタオルケットを顔にあてていた。 「また死ねって言われたじゃん」 「言われちゃったね」 私は子どもの背中をポンポンと優しく叩いてやった。 そういう日もある。 思い通りにいかないことだらけなんだよ。特に子どものうちは。 子どもは、なんの力も持たない。 だから大人がどうにでもできる。 いい思いも、嫌な思いも、大人の気持ち次第でどうにでもできる。 子どもの抵抗なんて、すぐに潰される。 自由なんて、ほとんどない。 それが子ども時代というものなんだ。 それならばせめて私が、この子の手助けをしようじゃないか。 この子がつらい時、この子が泣きたい時、この子が孤独な時、この子が死にたい時、私がこの子の側にいようじゃないか。 きっとそれが、私の役目なのだろう。 私はこの子どもに寄り添うことを決めた。 それは私の記憶の中で「わたし」が側にいてくれた始まりでもあった。
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