それでも彼女はその不貞を許せなかった。

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「え、嘘。アイちゃん、と?」  アイちゃん。里見哀歌。五年振りに聞いた名前。どうしてアイちゃんが。なんで? 「昨日、ホテルで偶然再会したんだ。信じられないかもしれないけど、その……」  愛子の視界が歪んだ気がした。タカハシは、何かの言い訳を始めようとしているように思えた。それに二人がホテルで偶然? そんなことにわかには信じられない。それにタカハシのこの態度から、一つの事実が浮かびあがってきた。愛子は全てを理解できた気がした。 「──そう、寝たのね……」  愛子は力なく消え入りそうな声で呟いた。  二人は肉体関係を持ったのだ。それに、その過ちが昨日だけのものとは限らない。もしかしたら、二人はこの五年の間に何度も愛子の目を盗んで逢い引きをしていたのではないか。様々な憶測が愛子の脳裏をけたたましく巡っていく。  しかし、愛子は駅の天井を見上げて涙を堪えると、 「そっか……。でも、いいの。あたしたち、これから夫婦になるんだもの。正直、こういう事もあるんじゃないかって覚悟はしてたから。いいよ。気にしない……」  無理矢理つくった笑顔のまま、愛子はタカハシの犯したであろう、不貞を許した。彼女のタカハシへの愛情はそれほどに深かった。たとえ裏切られていようとも、最後は自分のところに帰ってきてくれるなら構わない、と──。
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