11 尚央の家出~早瀬拓海~

8/21
126人が本棚に入れています
本棚に追加
/137ページ
「それ、あとで僕がやるよ」 「いや……、いいって、これだけだし……」 「だめ。だって僕、もう待てないもの……」 「え――」 「ねぇ、こっち見て、拓海……」  背中が熱い。心臓の鼓動がどんどん速くなる。尚央の温もりを感じながら、こんなにも緊張している。こんな風に、尚央に誘惑されるなんて、拓海は思ってもみなかった。 「キス、しようよ……」  色気たっぷりに、耳元で囁かれる。それには堪らず、拓海は泡だらけの手をそのままにして、振り返る。すると、その瞬間。拓海の唇に、柔らかな感触が重なった。 「ん……っ」  唇が離れる時、ちゅ、と音が鳴る。たった一瞬の、触れるだけのキス。それだけで、拓海の理性は崩れてしまった。拓海は手の泡を流して水道を止め、タオルで拭いてから、尚央の首に手を回して抱きついた。 「いいよ。キス、しよっか……」  そう言った後、また唇が重なって、離れる。さっきよりもほんの少し長いキスだった。だが、もう一度唇が重なった後、互いにそれだけでは止まれなくなってしまう。拓海は欲望のままに尚央の唇を食み、尚央もまた拓海の唇を受け入れながら、それに返すように拓海の唇を食んだ。 「尚央……、んぅ……」  タガが外れてしまったような感覚だった。尚央は拓海をぎゅうっと抱きしめて口づけては、髪を優しく撫でてくれる。そうして、何度も、何度も唇を重ねながら、だんだんと互いの呼吸は荒くなっていった。 「はあ……、尚央のキス……、きもちぃ……」 「拓海……」  貪るように互いの唇を重ねて、やがてどちらともなく舌を絡め合う。キスが、深く甘くなっていく。唾液を含んだ舌が生き物のように絡み合い、口の中をねっとりと這う。その感触に、脳の奥が痺れていくような心地がする。 「ずっと、寂しかったよ……」  キスの合間に、そう囁かれ、胸の奥が苦しくなる。まるで彼に、ぎゅうっと心臓を掴まれたようだった。 「おれも、すげえ寂しかった……。尚央、急に電話出てくんないし……」 「ごめん……」  尚央はそう答えただけで、理由までは言わない。一体何があってそうなったのか、気になる所ではあるが、問い詰める気にはなれなかった。尚央の表情を見れば、はるばる那須まで会いに来てくれたことを考えれば、彼の想いが変わっていないことは明らかだったからだ。尚央は誠実だと、何の疑いもなく理解できる。拓海は、申し訳なさそうに俯く尚央の唇に、ちゅ、と口づけた。 「いいよ……。会いに来てくれたの、めちゃくちゃ嬉しかったから……」 「許してくれる……?」  こく、と頷いた。すると、尚央はホッとした顔で「ありがとう」と言って微笑む。彼のことだから、きっと落ち着いたら話してくれるだろう。それに今は、そんな話を聞いていられる余裕もない。拓海はネクタイを解き、それをソファに向かって放り投げ、また尚央の首に手を回し、唇を塞いだ。 「ね、尚央……」 「ん……」 「おれのこと、好きって言って……?」 「好き……。大好き……」  尚央に囁かれ、ゾクゾクと全身の肌が粟立った。嬉しくて、尚央が愛おしくて、泣きそうになる。 「おれも、尚央が好き……。おかしくなりそうなくらい、好き……」  ぎゅっと尚央と抱きしめ、体を密着させる。甘く囁き、唇が腫れ上がってしまいそうになるほど、何度も何度も口づけ合う。部屋の中には、ちゅ、ちゅ……と、唇を吸い合う音が絶えず響いた。すると、次第に股の辺りに、硬い突起が当たり始める。 「ん……、んぅ……」 「はぁ……っ、拓海……」  尚央、キスだけで感じてくれてる……。     もちろん、尚央だけではない。同じように拓海もまた、尚央とのキスで快感を得て、股の間を膨らませている。そのせいで、互いのそれが擦れ合っている。その感覚はひどくもどかしく、だが興奮もさせられて、拓海はわざと体を密着させた。  あぁ……、これ、すげえきもちいし、ドキドキする……。 「はぁ……っ、ん、尚央……」  もうキスだけではとても物足りない。拓海は尚央のTシャツの下にそっと手を忍びこませ、直に肌を撫でる。その途端、尚央はビクン、と体を震わせた。 「ん……ッ」  尚央の肌は、腹も背中も、しっとりと濡れていた。少し汗を掻いているようだ。拓海は尚央の唇をじっくりと食みながら、Tシャツの下の肌を指の腹で確かめるようにゆっくりと撫でていく。 「ん……、ふぁ……」  唇の端から漏れる吐息はあまりに艶やかで、また、拓海をひどく興奮させる。その声がもっと聞きたくて、拓海は指先をゆっくりと胸元へ近づけていく。そうして、胸の尖りを見つけると、そこを爪の先で優しく掻いた。 「んっ、んぁ……」 「可愛い声……。尚央、おっぱい触られるの好き……?」 「うん……、ビクビクするけど……、きもちい……」 「じゃあ、もっと触ってあげる――」  だが。不意にふわりと風が入ってきて、さっき窓を開けたことを思い出す。 「あ、やべ。そうだった。ちょっと待ってて……」  拓海は一度、尚央の体を離し、冷房をつけて、窓を閉め、カーテンを閉める。それから尚央の手を引き、ソファへ誘った。愛らしくて艶やかな尚央の声が、近隣住民の耳に入っては面白くない。 「これで、よし。尚央、こっち来て。ここ座って……」 「うん……」  言われるまま、ソファに座った尚央の股の間は、すでに膨らんでいた。拓海は彼の膝の上に跨り、自らワイシャツのボタンを外していく。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!