11 尚央の家出~早瀬拓海~

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「ねぇ、尚央。おれさ……、ずっと尚央に抱いて欲しかったんだ……。いつか、尚央と恋人になったら、めちゃくちゃに抱かれてみたいって、ずっとそう思ってた……」 「めちゃくちゃ……。でも、僕……、一度もその……、セックスはしたことないから……、上手くできるかな……」 「大丈夫だよ。この前だって、すごく上手だったじゃん。ああいうことするの、初めてだったんでしょ?」 「うん……」 「それに、当分はおれがリードする。絶対、尚央のこと気持ちよくさせてあげるよ。だからさ……、尚央、おれと……、エッチしてくれる……?」  ドキドキしながら、拓海は訊ねる。これまで誰かと関係を持つのに、こんな風に承諾を得たことも、緊張したことも一度もない。キスを始めてしまえば、あとは欲望のまま流れに任せるだけ。自然と行為に進み、気が付けば快楽に溺れていた。けれど、今はそう簡単にはできない。自分でも驚いているが、拓海は自分の欲望よりも、大事にしたいと思っているのだ。尚央の体、尚央の気持ちを。 「拓海……」  尚央が優しい声で拓海を呼ぶ。それから、そっと指先で頬を撫でて微笑み、こく、と頷いてくれた。 「僕も、シたい……。拓海と……」 「ほんと……?」 「うん。また、この前みたいに、教えてくれる……?」  尚央が訊ねる。それを聞いた途端、拓海は頷き、尚央をぎゅっと抱きしめた。 「喜んで! おれ、尚央が中毒になっちゃうくらい頑張るからね……!」  拓海がそう囁くと、尚央は拓海を抱きしめ、とびきり優しい口づけをくれた。拓海も彼に応え、そっとキスで返す。唇が触れ合うだけの、優しくて甘いキス。だが、すぐにまた、どちらともなく互いの唇を欲して舌を絡め、夢中でそれを食む。そうしながら、腰をくい、と押し当てれば、再び股の間の膨らみは微かに擦れ合った。 「尚央……、ん……」  あぁ、もう……。こうしてるだけで頭ン中、ふわふわしてくる……。すっげえきもちいー……。  柔らかで、あたたかくて、甘くて、切なくて、いつまででも味わいたくなる中毒性のあるキス。早くその先へ進みたくて興奮させられるのに、不思議なほどホッとさせられ、意識がぼんやりとしてくる。  やば……。尚央のこと中毒にするとか言っておきながら、おれの方が中毒させられてる……。  だが、リードすると約束したのだから、いつまでもこうしてはいられない。拓海はぼうっとしたまま口づけ、ボタンを外したワイシャツを脱ぎ、インナーを脱ぎ、尚央のTシャツをも脱がせていく。 「尚央も脱いで……」 「ん……」  尚央の体があらわになる。その途端、拓海は目を奪われ、思わず尚央の肌に触れる。首筋から鎖骨へ。鎖骨から胸元へ。指先でなぞっていく。  綺麗な体……。白くて、骨張ってて……。こんなに色っぽいのに、尚央ってちゃんと男なんだよな……。 「あ、あんまり見られると恥ずかしいよ……」  口を尖らせる尚央の言葉も、ぼんやりと遠のいてしまう。それほど、拓海は彼の体に見惚れていた。こんなにも理想的な体は見たことがない。肌は滑らかで美しく、どこも汚れていないような純潔さを纏っていて、均衡が取れていた。  これまで、誰のものにもならなかった、尚央の体……。でも、今は……おれだけが触れる、おれだけの尚央だ……。  彼の素肌を指の腹で撫でながら、その首筋に顔を埋める。そうして、ちゅう、と吸いついた。これはマーキングだ。拓海以外の誰も、彼に近づかせない為の印。 「た……っ」 「……あ、痛かった?」 「うん、ちょっと……」 「ごめん……、でも、これで尚央に変な奴は寄ってこないからね……」 「そうなの?」 「そうだよ。これはね、悪い虫よけ」 「悪い虫……」  拓海は、尚央の首筋に赤い痕が残ったのをしっかり確認して、そこにねっとりと舌を這わせる。そうしてまた、唇を塞いだ。この印をつけていなければ、尚央はきっとそのうち、遅かれ早かれ、誰かしらに狙われることになるだろう。バイトをしている先の客や、毎日の通勤ですれ違う人。一目見かければ、彼が魅力的だということは誰でもわかる。 「尚央は美人さんだからね。おれはすごーく心配なの」 「そんなことな……、んぅ……」  唇を塞いで、尚央の言葉を遮る。これまで社会に出ていなかったせいで、本人も気づいていないことが多いようだが、尚央には困ってしまうほどの色気があるのだ。こんなにも美しくて、優しい心を持つ彼が、今後、順調に社交性を身につけて人と接触することが増えれば増えるほど、拓海は不安になる。ライバルは必ずそれに比例して、増えていくはずだと思うからだ。  誰にも渡さない。尚央のことだけは、絶対……。  独占欲に支配されながら、尚央の唇に夢中で口づけ、早く尚央で満たされたい気持ちが逸る。そのせいで腰が揺れてしまう。尚央にとってはロストバージンなのだから、大事にしたいと思いながら、体は実に貪欲だった。   「尚央、ソファに凭れて……。その方が、たぶん楽だと思う」 「うん……」  尚央は従順だ。拓海の言う通りに背もたれに寄り掛かる。拓海は彼の髪を指先で梳くように撫でて、再び唇を塞ぎながら、胸の尖りを指の腹でくるくると撫でた。 「んっ、んぅ……」  尚央、ちゃんと感じてる……。かわいい……。  拓海は、尚央の胸の尖りを撫で、時折摘まんではまた撫でる。そこはだんだんと硬さを増して、すぐにぷっくりと頭を持ち上げ始めた。それを指先で確かめると、拓海は唇を離す。だが、尚央と目が合ったその瞬間。体中の肌がゾクゾクと粟立った。 「ん、はぁ……、拓海……」  濡れた唇の端に、つう、と唾液が垂れ、頬は赤らんでいる。瞳はうっとりと拓海を見つめている。その色素の薄い瞳に、拓海は囚われ、吸い込まれてしまいそうになる。  尚央……、やっぱ、すげえエロい……。この前も相当だったけど、今日はなんだか、余計に……。 「拓海……」 「ん?」 「僕も……、拓海のこと気持ちよくしてあげたい……」
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