恋と桜と少年と

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恋と桜と少年と

 高校に行く途中に、綺麗な桜の並木道がある。通称、“雪桜通り”。桜雪、ではないので注意。何で雪桜なんて言われるからと言えば、ここで咲く桜がピンクというよりほぼ真っ白に近い花をつけるからである。突然変異の類なのか、元よりそういう種類なのかは知らない。そしてこの桜が満開を過ぎて散り始めると、桜の花びらというよりまさに雪が降っているように見えて幻想的なのだ。見ごろの季節になると、土日を中心にお花見目的の家族連れをちょいちょい見かけるようになるくらいには。  そんなこの雪桜通りには、ちょっとした都市伝説めいたものがある。  花びらが、さながら雪のように降り積もる季節に好きな人に告白すると、必ずうまくいくという言い伝えである。高校二年生になった私も、その言い伝えを実行してきた一人だった。都市伝説を信じているからって?――否、かつて信じていたから、とでも言えばいいのか。何故なら。 「ひ、ひいいい!け、毛虫いいいいい!」 「うわあああああああああ!?」  何故だ、何故こうなる!  今年こそ、と思ってテニス部の先輩を呼出し告白しようとしたその瞬間。樹上から毛虫が降ってきて、二人仲良く悲鳴を上げて逃げ出す羽目になったのだった。うっかりバラバラに逃げてしまったために、はっと気づいた時には式村(しきむら)先輩の姿はなく。私は学校帰りの制服姿のまま、ぽつーんと降り積もる花びらの中に取り残される羽目になっていたというわけである。 ――おっかしいでしょーがあああ!  ぐがああああ!と私は頭を抱えて悶絶する。どうにか毛虫が服や髪に引っ付くのは免れられたが、だとしても。 ――なんで!?何で私の告白ばっかりこんなに失敗しまくるんですかねええええ!?  これである。  実はこのおまじない、小学生の時から試しているのだ。私の家はこの並木道の隣の公園の前――という超直近にある。この道は駅に行くためにも通るし、小学校中学校に行くためにも通る道なのだ。ついでに言うと、高校まで徒歩で行ける場所に通えているというラッキーぶり。つまり、好きな人を呼び出して告白するのにはもってこいだったというわけだが。  何度も繰り返しているあたり、お察しであろう。毎回失敗しているのである。しかも大抵、良くわからないトラブルが起きて告白そのものが台無しになったり、フツーに振られたりする。 『人を呼び出しておいて、遅刻するなんて……そんなことってある?』
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