恋と桜と少年と

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 中学校の時の、後輩の男の子の冷たい目と言ったらない。いや本当に、絶対伝えたいことがあるからと言って呼び出したのに、何故その日に限って放課後に机に突っ伏して寝てしまって二時間も待ちぼうけさせるような羽目になるのか(その日に限って先生が巡回に来ないなんてあるのか!)。  ああ、遅刻といえば。その日に限って成績不振で職員室に呼び出され、ねちねちとオバサン先生に説教されたせいで告白の現場に行けなくなったなんてこともあったような。あの時は、もう想いを伝えたい相手はさっさと帰ったあとだったというのだから切なすぎる。そういう意味では、二時間も待っていてくれただけあの男の子は優しかったと言わざるをえない(この場所に呼び出された時点で、こちらの意図などわかりきっていたというのもあるのだろうが)。  まあ、ようするに。  この雪桜通りの都市伝説を信じて告白を試しまくっているのに、毎年一人~三人ずつ告白しては大玉砕をぶちかましているのである、私は。  まるで、見えない力が邪魔でもしているかのように。 「何が絶対告白に成功する道じゃい!私になんか恨みでもあんのか、ええ!?」  告白に成功した先輩が何人もいるのを知っている。だからこそ、何故私だけ?という気持ちが拭えないのだ。近くの桜の木の幹を掴んでゆさゆさと揺さぶってやると、はらはらと上から落ちてくる花びらたち。ああ、とても綺麗だ。綺麗だとも。でもできればイケてる男の子に“綺麗だね”って言いながら髪についた花びらを取ってもらいたいのが乙女心というものではないか!  何で自分は独りぼっちで、ここでガアガアとアヒルのように喚いているのか。ありえない。ありえないったらありえない!ああ、来年は受験生になってしまってみんな忙しくなる。今年のうちに、彼氏をゲットしておきたかったというのに! 「やめろよ馬鹿」  そんな私のすぐ後ろから、高い声が聞こえてきた。 「そんなに揺さぶったら桜の木が可哀想だろが」  一体誰だ、今のバーサーカーモードの私に声をかける勇気のある剛の者は。私が勢いよく振り向くと、そこに立っていたのは思っていたよりも随分ちんまりとした影だった。 「何だよ、文句あるか。俺、おかしなことなんか言ってないだろ」  言い方は勇ましいが、声は随分と高くて可愛らしい。小学校一年生が精々、くらいの見た目の少年だ。青いキャップを被り、青いシャツに紺色の半ズボンを着ている。目が大きくてくりくりとしていて、顔立ちだけ見れば充分美少年の類ではあるが。
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