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「別に殴ったり蹴ったりしてるわけじゃないでしょうが、その程度で文句言ってんじゃないよクソガキ」
生憎。今の私は非常に機嫌が悪い。普段ならともかく、今は子供相手とて優しくしてやれる心の余裕なんか何処にもなかった。
「この桜吹雪の中で告白したら絶対成功するとか言われてんのに、私ばっかり失敗続き!さっきだって毛虫降らせてくるとか、マジでどういう了見だとしか思えない!どんだけ私に恨みがあるんだっつーの、ええ!?」
「何だよ、桜に邪魔されてるってわかってんじゃん」
「はあ!?」
「ずっと見てたけどさあ。あんた、何で邪魔されてんのわかってるのにここでの告白に拘るの?意味わかんないんだけど」
「はああ!?」
この物言い。もしやこの少年、私の今日の告白大失敗ぶりを見ていたのだろうか。否、それだけじゃなくて、過去の告白も?
「あんた、毎年ここで誰かしらに告白して失敗してるじゃん。ご近所でちょっと有名なんですけど?」
「な、なんですとおおおお!?」
さすがにそれは想定外がすぎる。私は思わずずさささささ!と少年のところまで走り寄っていって問う。見れば見るほど綺麗な顔をしている。見覚えのない顔だが、すぐご近所に住んでいるのだろうか。並木沿いに一戸建てが立ち並んでいるし、そのうちのどれかに住んでいてもなんらおかしくはないが。
「ま、マジデ!?」
まさか、毎年見られていて、ご近所の笑いものにされていたのか。私へなへなとその場にしゃがみこむ。
「は、は、恥ずかしすぎる。……新田七夏一生の黒歴史ぃ……!」
「今もその黒歴史継続してるけどね」
「いらんツッコミすんなし!」
ああ、こいつ。人の傷に塩すりこむタイプなのか、そうなのか。もう段々、怒る気力もなくなってきた。
「ていうか、俺の質問に答えろよ七夏サンとやら。何でこの場所での告白に拘んの。桜に邪魔されてるような気がするってんならさあ」
どうやら、彼はそれがどうしても尋ねたくて私に声をかけてきたということらしい。私はしおしおと萎れながらも、緩慢に顔を上げて言った。
「だってさあ、ロマンがあるじゃん?ここで告白したカップルは成功して、末永く幸せになれるっつーんだよ?ちょっと舞い上がっちゃうじゃん?実現させたいじゃん?」
「毎年失敗するのに?」
「失敗したら逆に意地になんの!そんな都市伝説あんのに何で私だけって思っちゃうでしょ!?何が何でも成功させてやりてえって思っちゃうでしょ!?」
くわっ!と目を見開いて言ってやれば、彼は。
「馬鹿なの?」
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