恋と桜と少年と

4/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 子供らしからぬシビアな口調で、ずびし!と切り捨てて来た。 「もし本当に桜が邪魔してきてるなら、それには理由があるって思わないの?例えば……あんたの告白が成功したら都合が悪い、とかさ」 「都合が悪い?誰にとって?」 「誰かにとってだよ、例えば……それが万が一成功したら、あんたも相手も不幸になるとか」  不幸になる?  私は首を傾げた。告白が失敗して傷つくならともかく、成功して不幸になるとはどういうことなのか。 「だからさあ」  彼は深く、深くため息をついた。 「そもそも、小学校一年生から毎年違う人間に告白してるって時点で、自分でもなんかおかしいって思わない?それって、あっさり前の恋を忘れられたってことでしょ。前の恋が、その程度だったってことでしょ。でもって、此処で失敗し続けてるのに、あんたは“告白が実ること”よりも“ロマンあるこの場所で成功すること”に拘ってる。それってさ。相手とカップルになって幸せになることより、“自分の恋が自分にとって都合よく成功すること”にばっかり比重置いてるってことじゃないの?」  つまり、と彼は続ける。 「あんたさ。さっき毛虫で逃げた先輩のこと本当に好きなの?それとも、“理想の恋愛に成功する自分”が好きなの?」  どくん、と心臓が跳ねた気がした。とても痛いところを突かれたと自分でもわかったからだ。  確かに。自分は告白が失敗するたび、一時“ふがああああ!”と怒ってもすぐに切り替えていたように思う。一年どころか、数日で次の告白相手を見つけたころさえある。なんせ、雪桜が降り積もる時期は非常に短い。舞い散っているその期間に告白しなければ意味がない。今を逃すと次は一年後ともなれば、焦る気持ちが出るのも致し方ないことではないか。  だが。  すぐ“桜が散ってしまう前に別の相手に告白しなくちゃ”なんて思うのはつまり。この間失恋した相手に、本当の意味で恋をしていなかったからではないのか。 「恋に恋する気持ちはわかるけど、あんたもう十七歳じゃん。ものが分からないほど子供じゃないだろ。いい加減目を覚まして、本当の恋をしなよ。じゃなきゃ、相手にだって失礼だろ」  ほら、と。少年は冷たい目で私を睨む。 「はっきり口に出してフラレる前だったってのにさ。姿が見えなくなった、さっきの先輩を探しに行きもしないのは何でだ。本来なら、俺と話してる場合じゃないはずだろ」 「……っ」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!