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――ホー、ホー、ホッホー……梟が謡う。遠くで鳴りつづけていた太鼓や笛の音が止んでいた。それで、自分がいつのまにか寝ていたのだと気づいた。どれだけの時が過ぎたのかわからなかったが、膝の上には、まだ熊蔵の頭があった。
「熊蔵さま、そろそろ床で休みましょう」
肩を揺すってみたが返事がない。不安を覚えて顔を寄せた。身体には温もりがあるのに息はなかった。
「熊蔵さま……、熊蔵さま、どうしたのです? 息をしてください」
肩を揺すると、目覚めた梅香が熊蔵を抱いて叫んだ。
「あんたぁ!」
「熊蔵さま!」
呼びかけても、身体を揺すっても、微笑を作った熊蔵が目覚めることはなかった。
「なんとも気持ちよさそうに逝ってしまったねぇ。若い女の膝で逝くとは、この人らしい……。無事にお行きよ」
梅香が夫の頭を撫でた。
ひとつの時代が終わった。……雉女は境川で死にぞこなった昔を懐かしく思いながら、紙人形を熊蔵の懐に入れた。
(了)
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