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プロローグ
右斜め前から長方形のLEDビデオライトを当てられる。
「視線をもっと上に向けて。そう、もう少し脚を広げて」
とっくに捨てたつもりでも、先生の指示を受けるたびに蠢きだす羞恥心。それをかろうじて抑え、私はロボットになりきろうとする。無駄だとわかっていながら。
一眼レフのシャッター音が聞こえるたびに、陰毛の一本一本の先まで神経が過敏になる。毛先の神経が下腹部に集結し、私には抑制できないほど子宮がもがいている。
「膝を上げてもっと腰を突き出して」
先生は今日は焦れている。きっと私のポーズが先生の求めるものと違っているのだろう。講義室では抑揚の乏しい声で淡々と講義を進める先生が、写真家に変身するや否や情熱家になる。妥協は許されない。
私は恥丘を突き出し、腰をしゃくる。
「んふん……」
私の唇から喘ぎ声が漏れてしまう。同時によだれが垂れる。その瞬間を逃さず、カシャッ、カシャッとシャッターが切られる。
触らなくてもわかる。
私の性器がびしょびしょであることを。熱を帯びていることを。絶えず膣から漏れてくる体液でドロドロに光っていることを。
ふだん陥没している乳首は丘の上で尖がりきってピリピリしている。
私は、いつに増して身体が熱くなっている。それには理由がある。そう、先生の後ろに車椅子の奥様が控えているからだ。私をこよなく愛してくれた奥様。私の性感帯のすべてを把握している奥様。
奥様はその不自由な身体で一体何を考えているのだろう。私の裸体を収めたビデオの背景音楽は奥様のピアノ演奏になるはずだ。きっと彼女の頭の中には今、美しいショパンかラフマニノフが流れているに違いない。
先生が、私の開かれた体に急接近し、カメラを突き刺してくる。先生の視線は私の処女膜のわずかな隙間から見える襞の一枚一枚までとらえているに違いない。私は大きな満足に顔をほころばせ、車椅子に小さく納まった奥様を見やる。
その時私の目は捉えた。彼女の顔が歪み痙攣が走るのを。
それを私はよく知っているつもりだ。──嫉妬と呼ばれる、もっともやっかいな感情。
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