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1.私は裸でクモの糸を手繰る
恋はするのではなく落ちるのだとはよく言われる。するものなら意志の問題。しないことも可能だ。だが、落ちてしまうものだとしたら事故だ。気づかぬうちに罠にはまり悶え苦しむことになる。
落ちたという実感があったからこそこんな夢を見たのだろう。
かお、カオ、顔……。
私は女たちの顔に囲まれている。足が地についていない。そんな足の付かないほど深い池に落ち浮き沈みするオンナたちのうつろな顔に私は囲まれている。
そこへスーッと音もなく降りて来る一本の糸。
暗闇で銀色に輝くそれに罪人たちは一斉に手を伸ばし、必死の思いで掴もうとする。
一番美しい女がそれを掴む。ヒロインというものは例外なく美しいものだ。彼女もヒロインになれるとその瞬間は信じて疑わなかったはずだ。
ところがお釈迦様は気まぐれを起こす。糸は強風にあおられ、美女の白く長い指先をスルリと逃れる。美しいオンナは糸を追いヒステリックに泣き叫ぶ。その声はなぜが仲良しのナツミに似ていた。
空中をしばらく呑気にさまよっていたそれが再び落ちて来たのは、なんと私の真上だった。
美しくも聡明でもない私が。とてもラブストーリーのヒロインにはふさわしいとは思えない私がこの糸を掴んでいいのだろうか。──ほんの一瞬だけ躊躇した。が、
──神に与えられたチャンスだ! (いや「蜘蛛の糸」ならお釈迦様か?)
私だって女よ。恋に落ちた以上はこのチャンスを生かさなくちゃ!
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