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ヒロインに罪があってはいけない。ヒロインは無垢であるべきだ。──その思いがトップランナーの自信を揺らがせた。揺らぎは風を呼び、糸が大きく左右に揺れた。
「あっ、落ちる!」
糸から手が離れ、身体が反り返りかけたその瞬間、
「つかまりなさい!」
張りのある頼もしい声とともに上から伸びてきた腕に私はとっさにしがみついた。
私が抱かれた腕は冷たい。爽やかなオーデコロンの香りが鼻腔をくすぐる。
「先生!」
私はその人に抱きついた。お釈迦様でさえ浄められない私の煩悩を、この人ならきっと浄めてくれる。私を受け止めてほしい! 抱いてほしい! 絶対離すものか!
私は小学校の時鉄棒にしがみついたように、切ない思いを込めて先生の肢体に身体を巻きつけた。
「先生……、ああ、先生……」
好きな人の胸に抱かれて、脚の付け根にある私の罪が疼きだす。強くしがみつくほどに密着感が増し、罪は剝かれ、擦られ、ますます赤く膨れ上がる。
「うぐっ……」
からだが震え、嬌声が漏れる。
こんなに穢れている私なのに、先生はなぜそんなに深い慈愛のまなざしで私をご覧になるのですか。なぜそんなに優しく私を包んでくださるのですか?
あなたの慈愛にふさわしい清らかな女になりたい……。
夢が覚めてしまったら、私の穢れはこびりついたまま。
どうかこの夢が覚めませんように。先生に浄められますように。いつまでも先生の胸に抱かれていられますように。
そう念じた瞬間、お釈迦様の、いや、先生の慈悲が私の全身を電流のように貫いたのだった。
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