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11.先生の趣味
翌朝、奥様にもう一日泊って行ってほしいと言われた。
すでに奥様に抗えなくなってる私だった。奥様は私にとって精神的のみならず肉体的な拠り所ともなっていたのだ。心も体も奥様の魅力に惹かれ大きく侵食されていたのだ。
奥様は朝食の後、もう少し寝たいと言って寝室に入った。きっと、昨晩私と絡み合ったことで疲れが残っているのかもしれない。
私がリビングの時代のついたソファーに座っていると先生が書斎から出て来て、私の向かいに座った。心がそわつく。中学の時、好きな男子生徒と放課後の教室にふたりっきりになった時のことを思い出した。あの時以上のドキドキを大学生になった今、私は目の前の先生に感じている。
奥様にも恋をしているが、その源泉はやはり先生なのだ。先生への憧れがなかったら奥様をそんなに好きにはなっていなかったかもしれない。その逆に、奥様との深い関係がなかったら、先生への恋もそんなに深くなっていなかっただろう。先生へのプラトニックな愛が奥様への愛に発展した。
奥様との身体の関係は、いつか先生との肉体関係に発展することはあるのだろうか。
乾燥機の回る音が遠くから聞こえる。きっと昨晩汚してしまったシーツとバスタオルが回っているのだろう。光枝さんは濡れたシーツを見て何と思っただろうか。
外はしとしとと雨が降っている。私の肩越しに庭園の様子を眺めていた先生視線がいつの間にか私に当たっていた。その視線は長いこと動かなかった。私も先生の堀の深い顔を夢を見るような心持で眺めていた。
雨の音だけ聞こえる沈黙の時間のなんと濃密なことか。先生に見られていることで私の心は風船のように膨らむ。何のとりえもない自分だが、先生のお屋敷に来るたびに自尊心が成長してゆく。先生のそばにいるだけで人格者になれるように気さえするのだった。
先生はおもむろに腰を上げると、私の手を取った。
「あっ……」
奥様に触られた時のように微電流が走った。指先がピリピリしている。
「永吉さんに見せたいものがあるんです」
「は……」
私は先生に手を取られ書斎に連れて行かれる。廊下で出くわしたかっぽう着姿の光枝さんが足を止め軽い会釈をしてくれた。
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