11.先生の趣味

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「永吉くんは、生命力のかたまりだ! キラキラ輝いているんだ! 外面的な派手な輝きではない。胸の奥からじわじわと溢れ出る光だ。それが私と家内にはよくわかる」 「奥様……ですか」 「そうだ。キミを撮ることを勧めてくれたのは家内なんだ」 「は……」 「私ならキミの魅力を画面に収めることができる。私を信じてほしい」  大学では抑揚のない淡々とした口調で講義する先生が、こんなに熱心に私を口説いている。この人はきっと学者よりも芸術家に向いているのだ。もともと情熱家なのだ。 「やっぱり……ヌードなんですよね」 「そうです。全裸です」  先生はきっぱりと言った。膣の中で先生の指がプルッと震えた。 「奥様が了解なさったと……」  先生は「うん」と大きくうなずいた。また指で突かれる。脚をぐっと閉じる。  ああ、抗えない。奥様にも先生にも私は抗えない。でも……。  ヌード。──先生に裸を見られる。大きいばかりで乳首がまだ陥没している乳房が見られてしまう。下の毛が野性的に渦を巻いているのが知られてしまう。  ご夫妻に抗えない私の答えはもう決まっているのに、胸の中でくすぶっているものがある。肉体的コンプレクスだ。だが、奥様は私の身体を愛しているではないか。綺麗だ、かわいい、と賛辞を惜しまないではないか。奥様に認められているのだ。先生だって認めてくださるはずだ。  永吉美鈴! 自信をもって!  だが、「はい」の一言がどうしても口から出てこない。  私は激しい鼓動を刻む胸に手を当てて、大きく深呼吸をする。
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