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14.先生の告白
「私、奥様が望まれることは叶えてさしあげたいんです」
緊張のあまり大きい声が滑り出てしまった。時を重ねた書斎の壁や天井に反響し、エコー付きで私の鼓膜に帰って来る。まるで学生が研究室で指導教授の研究指導を受ける時のように、私は先生の机の傍らにいすを置いて座り、アドバイスを待っている。が、先生は一言も発しない。さらに続ける。
「奥様が私の身体に宿り、私の中から先生を愛し、愛されることを望まれるのなら、そうしてさしあげたいんです。そして、先生が奥様の心が宿った私の裸をビデオに収めたいとおっしゃるなら、そうしてさしあげたいと思ってます。嫌々じゃありません。私、奥様のことをとても愛しているし、先生のことも……大好きだからです。ずっと憧れていたんです。片思いしてたんです。だから、ビデオに撮られること……、身に余る幸せだと思っています」
先生はゆっくりうなずいた。強張り気味だった頬を緩めた。そして、ありがとう、と言った。
「奥様がヌードを動画に残したのは、先生を愛し、信頼しているからです。そして病気になってしまった今、先生の心の中に永遠に住みたいと思っていらっしゃいます。女にとって──これは古い考え方かもしれませんけど──身体って大切なんです。本当に好きな人にしか見られたくないし、触られたくないんです。いろいろな女の人がいると思いますが、少なくとも私はそうなんです。先生のこと、研究論文や講義に触れて日ごろから尊敬していました。このお屋敷にお邪魔するようになって、先生のことを人としても、男性としてもとても魅力的な方だってこともわかりました。奥様が先生に夢中になるお気持ち、私とてもよくわかるんです。今では、奥様に負けないくらい先生のこと……、愛してます」
先生は椅子を回し、私に向き合い、膝の上にそろえて置いてあった私の手を握ってくれた。いつも冷たい先生の手が暖かい。先生の心臓から送り出される暖かい血を直接感じた。それ自体が先生からの熱いメッセージだ。
「もうすでに、私の心には奥様が住んでいるんだと思います。男の人を愛したこともないし、愛されたこともないから、本当はどれだけ先生の愛に応えられるか不安です。でも、奥様が中にいらっしゃるなら、先生の愛にこたえられると思います。だから……ビデオに撮っていただきたいんです。先生が望まれる通り、身体を捧げたいんです。でも……」
私は唇を噛んで視線を落とした。
「でも、たった一つだけ、私を躊躇させていることがあるんです。それを……」
「わかっている」
どっしりと落ち着いた声。私は先生を見上げた。いつものような包み込んでくれるような視線ではなかった。物を突き刺すような、冷徹な知性で分析するような鋭い視線と出会ってしまった。一瞬たじろぐ。
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