14.先生の告白

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「永吉さんが大切な身体を私に提供してもいいと言ってくれている。キミはその決意をするまでとても悩んだと思う。だから、私の方からもキミに精一杯誠意を尽くしたい。つまり、キミの胸に渦巻いている疑念を解いてあげたい。戸籍上の妻と妹の瑞貴のこと。──これをキミは知りたいのだね?」  私はコクリとうなずいた。  先生はニコリと笑った。いや、口元では笑ったふりをしたが、目は笑っていなかった。相変わらず冷たく鋭利な視線を私に送り込んでいた。そのヒヤッとした触感にぶるっと身震いをした。  先生が話そうとしていることを果たして私は受け入れることができるだろうか。大好きな先生に猜疑心や嫌悪感を持ってしまうようなことになったらどうしよう。私は夢見る処女。先生には白馬に跨った王子様でいてもらいたい。  聞きたい。──いや、聞きたくない。  聞かなくちゃ。──いや、聞いちゃダメ! 「永吉さんに家内として紹介した女性、瑞貴は──私の実の妹です」  ああ、聞いてしまった。耳をふさぐべきだったのに。後悔先に立たず。クモの糸がプツンと切れ、私の身体は空気を切り裂くように一気に落下してゆく。 「私と瑞希は深く深く愛し合ってきました。身体の関係もあります」  私は大空に手を伸ばし救いを求めた。だが、全身がすでに血の池に沈み込んだ私の手は池の水面にも達しない。視界は真っ赤に染まり、ブクブクと泡を吐きながらさらに下へ下へと沈んでゆく。 「年の差が10年もありますから、正常な兄妹の間で育まれる正常な関係をどこかで喪失していたのかもしれません。  中学高校と、私は勉強もよくできたし、スポーツも万能だった。周りにはいつも女の子がいた。つき合っていた子もいました。私は友人関係や恋愛についてはオープンなほうでしたから、新しい友達ができたり、異性と付き合い始めたりすると必ず家に連れてきて両親と妹に紹介しました。両親に強制されたわけではありません。ただ、家族と友達と彼女と、境界線のない関係を作りたかったんです。家が広いし、両親は仕事が忙しいこともあって私の交友関係には干渉してこなかったから、つき合ってる子を家に連れてくることが多かったんです。  妹が中学生になると、私が連れてくるカノジョに嫉妬するようになったんです。妹は同い年の子よりも身体が発達していました。きっと、心の成長も早かったんじゃないでしょうか。  私は大学院での研究が面白くなってくると、女性とのつきあいには距離を置くようになりました。家が大学に近いから、近所のワンルームで自炊している女子学生も何人かいましたが、たまに研究仲間が集まって家で夕食パーティーを開くときに招待する程度で、特別な女性というのはいませんでした。
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