3.セックスしてません

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「で、どうなの? 木ノ下くんと──やった?」 講義が終わり、憧れの先生が階段式講義室から出てゆく。教壇まで押しかけての質問に丁寧なアドバイスをもらったナツミが、わたしの隣に腰を下ろし顔を寄せて来た。いつになく興奮気味だ。  彼女は先生の授業のあとは必ず私とマイの恋の進捗状況をチェックする。なぜだろう、といつも不思議に思う。私だってマイだって先生の心を鷲掴みにするような魅力は持ち合わせていない。いちいち牽制などしなくてもいいはずだ。自分がしっかり先生を見つめ追いかけていればいいだけの話じゃないか。 「『やった』って?」 「そんなの決まってるじゃん。エッチのことよ。もう三か月たったんでしょ。当然やってるわよね?」 私はうつむいて首を捻った。正直言うと、キスしたこともないのだ。 「美鈴(みすず)、それだからだめなんだよ。いい?よく聞きなさい」 ナツミは一層顔を寄せて来る。何となく顔の印象が変わったなと思ってよく見ると、眉が真っすぐ平行になっている。彼女は最近韓国メイクに凝っているのだった。自分磨きに余念のない彼女。 「かわいいオンナの共通点って知ってる?」 「共通点?」 「あのねえ、オトコが可愛いと思うオンナには(すき)があるのよ」 「隙?」 「そう。語呂合わせで覚えておきなさい。『オトコは(すき)()()』!」 「はあ……」 脇で聞くともなく聞いていたマイがプハーっと吹き出した。ボールペンがコロコロ転がって床に落ちた。  マイとナツミに置いていかれないように必死になって歯車の隙間を埋めて来たのに、男とつきあうなら隙を作れと言う。私はそんな器用には生きられない。 「彼に送ってもらったんだったら、部屋に上げてお茶ぐらい出しなさいよ。このオンナ押し倒してやろうかなと思わせるくらいの隙を作ってやるのよ。この子みたいに!」 ナツミはマイの肩に手を回し、もう片方の手でふくよかな胸を指先でツンツンした。 「あっ……、も、もう……ナツミ……」 「フフッ……、感じるんだね?」 彼女が最近ロストバージンに成功したのもきっとナツミのアドバイスのおかげだろう。マイのカレシも元々はナツミ派だ。ナツミを追いかけていたのがいつの間にかマイと落ち着いている。そしてナツミのアドバイスが功を奏し晴れて男女の関係になった。彼女は自分を追ってきた男をことごとくほかの女と結び付けるのが趣味のようだ。三匹生まれた犬の子を友達に譲る感覚で。  ちなみに、ナツミがストックしている男たちには共通点がある。  血液型がB型。地毛が茶色っぽくて、体毛が薄い。  だから、彼女から私とマイが譲り受けたカレシも例外ではない。木ノ下くんもB型。ちなみにいつもA型と見誤れるB型。髪は直毛で何となく茶色っぽい。手の甲も腕も毛らしきものは見えない。ツルツルでスベスベ。 「美鈴もDカップのおっぱいでカレシ誘惑しないと……。ウリャウリャ……」 「もう、ナツミ……」  ナツミは私の乳房を揉んでくる。マイと柔らかさ比べをするかのように。 「大学生のうちにそのくらいのことは経験しておかないとさあ……」  社会に出て男性に全然振り向いてもらえないか、痛い目に合うかのどちらかだというのが彼女の持論。ちょっと隙を見せてやりさえすれば、バージンを無事卒業できるのだと。そしたら卒業後、女の武器を使いたい放題だと。まだ社会人になったことのないくせによく言うよとも思ったけど。 「わたし、まだそんなこと……」 と、貞淑ぶってみはしたものの、私にだって性欲はある。あるどころじゃない。ズキズキ(うず)いている。本当は私、男なんではないかと思ったこともある。本当は木ノ下くんにも触ってほしいし、どこかへ連れ込まれて抱かれてみたい。  それを素直に表現したい。なのにできない。何かが私を束縛している。親の教育? 十人並みの容貌? 口下手? 「好意」が「恋」に深まりきっていないせい?
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